第15話 見覚えのあるような、ないような その1

 朝起きたらぜんぜん違う部屋にいた。

 

 目覚めたときの第1印象はそれだ。

 目が覚めたと思ったら、見えた天井が真っ白いタイル張り。

 一体何があったのだろうか、と思ったところで、こうなる直前のことを思い出す。

 楓の背後から迫りよる暴走トラック。

 それを視認した途端に恐怖で固まった楓を助けるべく、一切の躊躇をせずに飛び出して楓を突き飛ばした。

 その直後、突っ込んできたトラックと衝突し、そこで記憶は途絶えている。

 

 ふと起き上がってみると、ここはどうやら病室のようだった。

 そしてベッドの側に置かれた椅子には、見舞客らしき女性が座ったまま眠っていた。


 微妙に知っているような気がするのだが、顔などがよく見えないためか、あまり良くわからない。

 なんとなく楓に似ている気がするのだが、それにしては微妙に背が高い気がするのと、どことは言わないが記憶にあるよりだいぶ大きい。

 元からスタイルが良かったが、さすがにあんなに大きかったとは思えない。


 と、そこで。


 ガラガラ。


「あれ、楓ちゃん寝ちゃったか……。……えっ?」


 新たに入ってきた、しずく姉に似た、けれど妙に大人びた女性が俺に気付き、その手に持っていたものを落とす。

 そして驚きで目をまん丸く見開いて硬直して。

 その後ろから、


「急に荷物落として固まってどうした?とりあえず入るぞ……は?」


 入ってきたもうひとりの女性(こちらは莉乃さんに似ている、けれどやっぱり妙に大人びた人)も同様に固まる。


 そしていち早く硬直から覚めた先に入ってきた女性が座っていた人を揺り起こす。


「ん……?あれ、私また寝ちゃってましたか?」

「それよりこっち見て!」

「ふぇ?……律希ですか?……あれ、律希が起きてる?」

「やっぱりそう見えるよね?」

「うそ……、律希、目が覚めたの?」

「あの、すみません、どちら様でしょうか?」


 もの凄い勢いで詰め寄ってきた、寝てた女性に対し発した質問に、歓喜と絶望がないまぜになった表情を浮かべる3人。


「ひょっとして覚えていないの?川俣楓だけど?」

「え?楓?……じゃあその隣がしずく姉で左端が莉乃さん?」


 少々困惑しながら疑問をぶつけると、3人揃ってその両目に涙を浮かべ。


「よかった、よかったぁ、目が覚めてよかったよぉ、りつきぃ!」


 嗚咽混じりに声を出しながら飛びつくように抱きついてきたのは楓。

 後の2人もハンカチで目を拭ってる。


 そして、そのハンカチに見覚えのあるキャラを見つけ、さらにそのデザインも見覚えがあり。


「しずく姉、それって来年3月発売のやつ?」

「来年?でもこれもうとっくに発売されて――」

「しずく、今がいつなのか知らないんじゃないのか?だとすれば私達に気づかなかったのも理由がつくしな」

「そうかな?でもそうかもね、じゃなかったらあんな不自然な反応にはならないもんね?」


 何の話かわからない俺が首を傾げたときだ。

 楓が超衝撃的な話をぶっこんできた。


「えっとね、律希が轢かれてからもう2年弱が経つの。今は6月で、私と律希はもう高3、受験生なんだ。しずくさんと莉乃さんはもう大学2年生なんだよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る