第8話 交際戦争 Part4

 それからしばらくして。


「ごはんできたよ〜」


 楓の呼ぶ声が聞こえ、急ぎ足で降りていく。


「もう出来たんだ?」

「そうだよ。しずくさんも莉乃さんもできてるみたい」

「そっか。じゃあ味噌汁温めるからちょっと待ってて。その間に盛り付けお願い。ご飯はこっちでよそっちゃうけど、量の希望とかある?」

「私は普通でいいよ?」

「私も普通がいいな」

「お姉ちゃんも!」

「しずくねえは黙ってて。いつもの量くらい知ってるから」

「……久しぶりだね、その呼び方」

「あ、そうかも。……ってそんな話してる場合じゃない!急がなきゃ。もうこんな時間だ、明日学校あるんだし」

「ほんとだ。もうこんな時間なんだ、早いね」


 気づけば時計の針は夜の8時を指していた。

 これで明日全員揃って寝坊とかいったらシャレにならない。


 味噌汁の鍋を火にかけると同時にご飯をよそっていく。

 そうするとお鍋がグツグツいいだすので、すぐに火を止めこちらもよそう。


 食卓に運ぶと、そこには。

 随分と豪華な料理がズラッと並んでいた。


「誰がどれ作ったの?」

「私がチキンソテーオニオンソース、しずくさんが鮭となんか色々なのを焼いたの、莉乃さんが厚揚げあんかけだよ」


 ……どれも見た目、香りは高級レストラン並の出来栄えなのはどうしてなのだろうか。

 おまけに盛り付けまで綺麗と来ればもう完璧である。

 ただ味の方は食べてみないとわからない。


 というわけでまずは楓のチキンソテーからいただく。

 一口サイズに切り分け、ソースを少し付けてぱくり。

 

 口の中に広がる鶏肉のジューシーさ、そして玉ねぎの甘み。

 素材の味をフル活用して作られたこの味に、思わず笑みがこぼれる。


「鶏肉の旨味、玉ねぎの甘味を活かしてあってめっちゃ美味しい。なにこれ、楓ってこんなに料理上手かったんだ?」

「お母さんに教わってたの。……美味しいのを律希に食べてほしかったから」


 急に顔を赤らめて話した楓につられ、思わず俺も顔が赤らむ。

 それを見ていた莉乃さんがしびれを切らしたように、


「そこ!すぐにそうやって二人の空間を作るのはやめろ!ほら、次は私のも食べてみてくれ」


 とものすごい剣幕で言ってくるので。


 莉乃さんが作ったのは厚揚げあんかけ。

 厚揚げは焼き目が入れられている他、あんかけには野菜ときのこがふんだんに使われており、白米にかなり合いそうなメニューであることは確かである。

 さっそく取り分け、一口食べようとしたところで。


「ふたりともずるい!なんでお姉ちゃんより先なの?抜け駆けするってことはまさか莉乃、わたしに喧嘩売ってる?」


 突如として機嫌を損ねた姉が乱入し、俺の頭は混乱するのであった。

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