第2話 コンビニ店員の話


 僕が大学生の頃、とあるリサイクルショップでバイトをしている時。

 同じ時期に入った若い女の子がいました。


 お互いに自己紹介をして、「前職は?」と聞きました。

 僕はスーパー。

 彼女はコンビニ。


 僕はコンビニで働いたことがないので興味があり、「どんな感じで働くのか?」と尋ねました。


 すると彼女は、

「正直気持ち悪い」

 と渋い顔をします。


 辞めた理由もトラブルだと言う。


 彼女曰く。

 レジを担当していると、いつも声をかけてくる中年のお客さんがいて。

「おつかれさん。今日もがんばっているねぇ」

 と缶コーヒーを二つカウンターに持ってきて、一つは彼女に差し入れとして、毎回もらっていたそうな。

「ありがとうございます~!」

 そんなやり取りが毎日、続いて。


 なんか、グイグイ前のめりで、カウンター越しに話しかけてくるから、ちょっと居心地が悪くなりだしたそうな。


 日に日に、その距離は近づいていき、会話は彼女の容姿に変わっていく。

「ねぇ、君の……長い髪。艶があって本当にキレイだねぇ。僕、スキだよ」

「あ、ありがとうございます」

「はい、今日のコーヒー」

「いつもありがとうございます……」

「いいっていいって」

 当時、黒髪の女性は珍しく、金髪や茶髪が流行でした。

 僕も確かに染めてない女性を見るのは、久しぶりで、清楚な感じを覚えました。


 ある日、彼女は少しだけ長い髪を切ってきたらしく。

 気分転換にもなって、鼻歌交じりで本のコーナーで、腰をおろして商品を並べていると……。

 すぅーっと、肩に何が触れる感触が。

 振り返ってみると、背後にいつものコーヒーおじさんが立っていて、自身の髪を手のひらで確かめていました。

「ダメじゃないかぁ~」

「え……」

 少し短くなった髪の毛を指で撫でまわし、怪しく微笑む。

 この時、彼女は恐怖から鳥肌が全身に回ったそうで。


「あんなにキレイな黒髪を勝手に切っちゃ……」

 言いながらもずっと、毛先を触り続ける。

「あ、あの……」

「今度切るときは、僕の許可をとって切るんだよ。切りすぎだよ」

 恐怖からなぜか謝ってしまう。

「す、すみません!」


 そして、彼女はその日のうちに、店長にコンビニをやめることを伝えたそうです。

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