第3話 ブランドの話


 リサイクルショップでバイトをしていた時、店長にいつも厳しく注意されていたことがある。


「この店で一番高いのは、ブランドもののバッグだ。扱いには慎重に」と。


 ヴ●トン、エル●ス、プ●ダ……その他にもいろいろ。


 レジカウンターから一番近いところに、ズラーっとガラス製のショーケースに並べられている。

 ブランドものに疎い僕は、その価値がさっぱりわからない。


 だが、たまにケースの中を開いて、埃がたまらないように、掃除することがある。

 その際、ガラス戸に、錠前がついており、一々店長から専用の鍵を借りないといけない。

「味噌村くん、扱いには本当に注意してよ。君の給料の何か月分もあるんだから」

 と釘を刺される。


 鍵を開ける際も、防犯用のブザーが備え付けられていて、それを解除しないとアラームが鳴ってしまう。

 ショーケースが6個ぐらいあるんだけど、その度に鍵とブザーを外すのが面倒だ。


(一体、こんなバッグにどんな価値があるのだろう)


 そう思いながら、厳重に保管されているバッグを手に取ってみた。

 この際も、指紋や手の脂などが付かないように、白い綿手袋を両手にしている。


 値札を見れば、確かにものすごい桁が……。


(さ、三十万!?)


 中古とはいえ、店にある家電より高い。

 それが何十個も店内に。

 総額にしたら一体いくらになるんだろう……なんて考えると、手が震えだす。

 店長が厳しくなるのもわかる。


 ある日、買取したはずのブランドバッグが山のように投げ捨てられていたところを発見。

 雑に扱われていて、僕はビックリした。


 店長に尋ねると、

「これは偽物。だから、処分してる」

 らしい。

 興味があった僕は、店長に聞いてみた。

「どうやって偽物か本物か、確かめているんですか?」

 すると店長は、自身を持って語りだす。

「大体は正規店で購入したものなら、証明書みたいなのが入ってる。あとで売る事も考えている人は、箱ごと保管してるから、それが一番わかりやすい」

 店長に見せてもらうと、確かに審査中の商品は、しっかりとした箱と保証書みたいなのが入っていた。

「でも、それ以外にも見分ける方法はある。肌ざわり、ロゴマーク、生地。これは社員だけしかできないもの。特別な訓練を受けてるからね」

 と説明を受けた。



 数日後、同期の女の子が買取カウンターで、顔見知りの男性と駄弁っていた。

 僕は近くで、買い取った商品に、値札をつけたりしている。

 どうやら、地元の幼馴染らしく、かなり話が盛り上がっていた。


 僕もチラっとそのお客さんを覗いたが、なんだかホスト風の胡散臭い人に見えた。

 ニヤニヤ笑って、ブランド物のバッグを買取審査に出している。


 そのあと、僕と同期の子は仕事を終え、事務所に戻る。

 エプロンを脱いで、タイムカードをつけていると、どうやら同期の子の様子がおかしい。


「どうしたの?」

「いやぁ……私、怖い事聞いちゃって……」

 

 顔面真っ青になっている。

 僕は心配だったので、彼女から話を聞いてみた。


 彼女曰く。

 お友達は別のリサイクルショップで働いており、彼もまたブランド物にかなり知識があるようだ。

 その店でも偽物は買取しないで処分するルールらしい。

 だが、たまに正社員でも中々見分けるのが難しい、偽物が存在するようで。

 廃棄が決まった偽物を黙って持ち出し、この店で何回も買い取りしてもらったそうな。


 三十万以上もする販売価格のものなら、買取価格は十万円ぐらいは受け取れる。

 彼が言うには、正社員とはいえ給料が少ない。

 だから……

「この店でかなり儲けさせてもらった」

「ここの社員、結構見る目ないよ。ヘヘヘ」

 と笑っていたそうだ。


 同期の子が言うには、店のショーケースに並んでいる高級ブランドバッグの中に、何個、いや何十個も、偽物が混ざっているらしい……。


 だが既に時遅し。

 買い取った分はこちらに責任があるが、もうお客様に販売してしまったものが相当な数があるようだ。


 それを考えると、僕と同期の子は震えあがった。

 怖くなった僕とその子はすぐに店を辞めた。


 その後、勤めていたリサイクルショップはすぐに閉店し、偽物を売りつけてきた側のリサイクルショップの方は、今でも現役だ。

 

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