人から聞いた話 パート2

味噌村 幸太郎

第1話 バレンタインデーにまつわる話


 僕はバレンタインデーというイベントが嫌いだった。

 妻となるカノジョになる人と出会うまで。


 2月14日、本当に学校で机や下駄箱の中にチョコなんて入っているのだろうか。

 そんな奇跡みたいなことが、起こるのだろうか?

 なんて、都市伝説みたいに思っていた。


 中学生ぐらいの時に、6歳年上の大学生の兄に聞いてみた。


「ねぇ、兄ちゃんってさ。バレンタインチョコを付き合ってない人から、もらったことある?」

 すると、兄は渋い顔をしてこう答えた。

「もらわなかったが、一度だけ、中学生の時にバレンタインデーに告白されたことがある」

 僕は驚きを隠せなかった。

「えぇ!? すごい! 兄ちゃんってモテたんだね!」

 だが、兄は大して喜ぶ素振りも見せず、首を横にふる。

「俺のは……モテるとのは違う。クラスの人気者的キャラで、異性としては見られなかった」

「でも、もらえたんじゃん! 僕なんか一個もらったことないよ」

 兄はため息まじりにこう答えた。

「はぁ……あの時、お前は家にいなくて、知らんと思うが、その子はうちまで届けに来たんだよ……」

 僕はそれを聞いて、なんてロマンチックな展開だと、更に話の続きを期待する。


「それでそれで? どうしたの?」

「告白されたけど、断ったし、チョコも受け取らなかった」

「えぇ……」

「だってよ。カバみたいな顔をした子だったんぞ」

 酷い言い方だなと思った。


「でも、断ったしても、チョコをもらってあげても良くない?」

 経験のない僕からしたら、憤りを隠せない。

「もらったら、ワンチャンあると思われたら嫌だろ?」

 冷たい目をした兄がいた。

「ひどっ。それで、その子どうなったの?」

「ボロボロ泣いてたな。『どうしてもダメですか? もらってくれませんか?』ていうけど、断固として拒否した」

「えぇ、かわいそう」

「あのな。好きでもないのに、付き合うなんて、その子にとっても悪いだろが」

「でも、もうちょっと優しくしてあげても……」


 バレンタインデーって、とても残酷な日だなと、思いました。

 付き合っている人、カップルならば、幸せを分かち合える一日ですが。

 好きな人に玉砕覚悟で告白する女性にとっては、不幸を呼び寄せる一日なのかもしれません……。

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