安易な中ボス脇役の攻略対象化はシナリオ進行に大きく影響を与えますので、どうぞご遠慮願えないでしょうか
私と維茂は必死で気配を追っている。維茂の方の上で、私は怖い、落ちる、揺れる、怖い……と気絶しそうになりながらも、どうにか星を詠んで培った気配を探っていた。
だんだんと禍々しい気配……魑魅魍魎の気配が漂ってきた。黒いもやが立ち込めている。私は星見台に通っているときにもらった塩を、黒いもや目掛けてぶん投げたら、途端に霧散してしまったのに、目を瞬かせた。
ゲーム内だったら、マップ画面でマップのキャラの証言でしか聞くことのできない星詠みのお清め、無茶苦茶必要じゃん。そうだよな、戦闘でも保昌、サポートやヒーラーとしては優秀だけれど、それ以外のできることは全部ゲーム内だったらカットされていたもんなあ……ゲーム内でやたらと最年少に頼り過ぎと思っていたら、それだけできる子だったら頼るもんなのかな。いや、それでも頼り過ぎだと思うな。
私がひとりで勝手に考え込んでいる中。
魑魅魍魎よりももっと刺々しい気配が漂ってくるのに気付き、私は必死で目を凝らした……そういえば。
元々紅葉は目がいいから、里の中に侵入者が入ってきたら、普通に気付くし見えるはずなのに、どうして見えなかったんだろう。
可能性その一、収穫祭のせいで人が集まり過ぎて見逃した……いや、私がすぐチュートリアル戦闘の場所わかったのに、侵入者を見落とすなんて思えない。でも、南極星を唱えるまでは見つけることすらできなかった。
可能性その二……鬼無里の内部から、侵入者を招き入れたとしたら? 里の人がフェイクかましてしまったら、いくらなんでも見落としてしまうし、星詠みの預言がなかったら見落としていた……。
いや、むしろこれで確定じゃないか? 星詠みの預言を知って、さらにそれを出し抜いたって。鈴鹿、まずいじゃない。
私はその事実に気付いて戦慄を覚えた……道理で、危ないから結界の張っている神社に行けと維茂が言ったはずだ。内通者に私が人質に取られる可能性を考慮していたからだったんだ。でも、内通者は多分、星詠みでもなければ、頭領の関係者でもないのだろう。
もしそうだったら、紅葉が星見台に通って星詠みの勉強をしていると知っているから、彼女の預言を警戒しただろうし。
話をまとめて、私が目を凝らした先を見た。
そこには、人の姿を取っているけれど、明らかに人ではないなにかがいた。
ひとりは禍々しいほどに黒い髪を伸ばしっぱなしにして首筋まで伸ばし、金色の瞳。着崩した直垂。そして前髪を割って生える……鋭い角。顔の造形は怖ろしく整っていて、直垂から見える胸筋は陸上選手のそれを思わせた。
もうひとりは老人のような真っ白な髪を伸ばしっぱなしにし、同じく金色の瞳。そして造形はひどく中性的だった。同じく着崩していても、見える胸元も脚も、性別をちっとも感じさせない、人形的とも言うんだろうか。そんなアンバランスさを醸し出している。
「……鬼」
それに私は、またもイラリとする感情が募ってくるのを覚えた。
維茂は怪訝な顔で、肩にいる私を見上げる。
「紅葉様? あちら、魑魅魍魎を使役している輩……のようですが……」
「ええ、ええ。鬼、ですね……」
おい、クソプロデューサー。
これはいったいどんなシナリオ改悪だ?
私のイライラが募っていく。
よりによって中ボスふたりを、本編シナリオ開始の前に、みみっちい仕事させてるんじゃない!
その黒髪は
その白髪は
あとこのふたりの下に四人ほど鬼の部下がいるはずだけれど、今は見当たらない……というか。
私はそこで嫌ぁ……な予感を感じた。
戦闘系乙女ゲームのリメイク版でありがちなこと……人気キャラが脇キャラや敵キャラにいた場合、リメイク版で攻略対象に格上げし、その際に出番をずらして好感度が稼ぎやすくなる奴。
……あれか。大江山で仲間にしてから好感度稼ぎだったら、初期からいるキャラに絶対に負けるから、その前に好感度稼ぎのイベントを入れて、そこで全部フラグを回収したら、大江山で仲間になりつつ今まで稼いだ好感度を引き継げる奴か。
ふっざけんな!
そこで殺し損ねた女を殺すために追いかけ回して愛が芽生える奴か! それただのストーカーだろ! 悪役キャラは悪役だからこそ映えるのであって、軽率にストーキングして勝手にこじらせて勝手に攻略対象ですがなにかするんじゃねえわよ!
クソプロデューサー、表に出ろ! ほんと、お前の頭を殴らせろ! 一発や二発じゃ済まねえ、頭ぼっこぼっこになるまで殴らせろ!
私が何度目かの発狂をしている中、維茂は刀の柄に手をかけて、冷静に見計らっていた。
「……本当だったら、紅葉様はすぐにお帰り願いたいところだが……鬼の近くには置いておけない上に、内通者がいる可能性がある以上は、ここで同行願ったほうが危なくない……しかし鬼か」
「……ええ。魑魅魍魎を各地に撒いている方々ですものね。しかし、維茂だけで大丈夫ですか?」
「本来なら、利仁がいてくれたらと思いますが、いないなら仕方ありません……紅葉様」
私をじっと見てくる。
え、なに。イベント? 一瞬そう思うものの、いやそれは絶対ないと自分で勝手にオチを付ける。
「……まだ修行中ですが、星詠みとして、助力願えますか?」
……うん。本来星詠みはサポート特化のキャラだ。私も星詠みとして星の丸暗記はして、まだ完全に呪文を使いこなせているとは思えない。でも。
星見をしている中で頭の中に滑り込んできた言葉。まだ保昌のように回復や結界を張るなんて高等芸はできないけれど、ゲーム内ではほとんど目立たなかったことだったら、なんとかできると思う。
「……私のできる限りで」
「それでいいです。行きますよ」
「はいっ」
チュートリアル戦闘も抜きで、いきなり中ボスと戦うとか。ゲームバランスが本当に滅茶苦茶過ぎて、脳内で何度もクソプロデューサーを殺しているけれど。
友達を、鈴鹿の暗殺を失敗させてお帰り願うのが、最優先だ。
維茂が大きく茂みを踏み、草の音で鬼たちが気付いた。
……さあ、戦闘開始だ。
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