第4話 バグ縛りのスポーツテスト

担任の先生が教壇に立ち、話を始めた。


「今日はスポーツテストです。男子も女子も更衣室で体操服に着替えてください。」


クラスのみんなは体育館にある更衣室へ向かった。


おさむはシャツを脱ぎながらはちに尋ねた


「おい、今日もバグ使うつもりかよ。」


「バグじゃない。グリッチ。」


「……違いがよう分からんけども。」


八は体操服に袖を通した。


「そもそも今日は無理かもしれん。」


「え?」


「じきにわかるよ。」


クラスの全員が着替え終わり、更衣室を出た。


目の前にはシドー先生が立っていた。


「みんな!今日はスポーツテストだ!がんばれよ!」


シドー先生は生活指導もしているが、体育の担当でもある。


自分で記録をとる必要があるため、2人組を組むように言われた。


中には2人組になれなくてトラウマになる人がいるそうなのだが、八には治がいたので特に問題はなかった。


最初は握力だ。


シドー先生は、握力を測定する機械を3つほど用意した。


八の番はもう少し先だった。


「ハチ、何してんの?」


「ストレッチ。」


しかし、壁に体当たりしたり、右手首を掴んで頭上で振り回したりしている。


まともな動きではなかった。


この動きをシドー先生は見逃さなかった。


熊田くまだぁー!貴様、バグを使おうとしているな!」


八の動きがピタッと止まった。


まるで念力を使われたようだった。


「い、いや、そんなことは、ないっす、よ。」


八はかなり動揺していた。


「明らかに挙動不審だろうが!いいか!スポーツテストは公正に行わなくてはならん!少しでも変な動きをしたら体育の成績1!親御さんにも来てもらうからな!」


それは困る。


八は謎の動きを止めた。


手塚てづか!お前も熊田を見張ってろよ!」


「は~い。」


治がやる気のない返事をすると、シドー先生はその場を立ち去った。


「……だってよ。八。」


八は口を閉ざした。




そして、反復横跳び、長座体前屈、立ち幅跳び、50m走、ソフトボール投げ、シャトルラン……


結局、八に何も起きることはなくスポーツテストは終わった。


スポーツテストが終わると、記録用紙を先生に提出する。


記録は学校側で集計し、平均や最大値などを算出する。


そして、集計結果は個人の記録と共にプリントして生徒に返却する。


今日は記録の返却の日だ。


治は八を励ました。


「さすがに今回ばかりは仕方ないよ。八のデータのせいで平均とか狂ったら困るだろうし……」


「治。」


「ん?」


「僕はただ困らせたくてやってるわけじゃない。可能を見たいんだ。」


「……。」


「何ができて何ができないか……。見たくない?」


「……お前――」


担任の先生が教室のドアを開けた。


「みなさん。スポーツテストの結果が出ました。呼ばれた人は前に出てください。」


クラスのみんなの名前が次々と呼ばれ、記録を受け取る。


そして、先生が八の名前を呼ぶと、顔が曇った。


「えーと……熊田君?これは一体――」


「いやぁバグですかね。偶然ですかね。」


「一応記録用紙を返却しますけど、念のためこちらで再集計しますね。」


八は記録用紙を受け取り、得意げな顔で自分の席に戻った。


「治。見て見ろよ。」


治は目を丸くした。


当然だろう。


八の記録を担当したのは治だったのだから。


記録は異常な数値を示していた。




握力    999.9kg


長座体前屈 999cm


反復横跳び 999回


上体起こし 999回


立ち幅跳び 999m


50m走   0.0秒


ソフトボール投げ 999m


シャトルラン 999回




「全部カンストしてるじゃねえか!でも、どうやって――」


「これは『任意コード実行』って言って――」


要するに、特定の動作をすることで特定のデータをいじることができるらしい。


「まじめにテストしなくちゃいけないならデータを変えればいい。」


「……でも、そんなことしたらお前の成績が――」


「テスト中は変な動きしてないから――」


「許すわけないだろ!」


八の後ろにはシドー先生が立っていた。


「どうせお前の仕業だろう!テスト中に変な動きはなかったからお咎めなしだが、お前だけはテスト当日の記録用紙を使わせてもらうからな!」


その後、治が書いた記録用紙が八の手元に届いた。


「……記録落ちた。」


「当たり前だ。」

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BUG RICH(バグリッチ)〜バグだらけの日常〜 あーく @arcsin1203

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