第3話 白熱!消しゴムバトル!
キーンコーンカーンコーン
20分休み開始のチャイムが鳴ると同時に、男子の一人が声を上げた。
「よっしゃ!『ケシバト』しようぜー!」
説明しよう。『ケシバト』とは、消しゴムバトルのことである。
まず机に自分の消しゴムを置こう。
そして、じゃんけんで先攻後攻を決めよう。
自分の番になったら消しゴムを弾き、相手の消しゴムをはじき落とした方の勝ちだ。
消しゴムを少しでも弾くと相手の番になるので、ミスショットには注意だ。
基本は指で弾き飛ばすのだが、定規を使っても構わない。
ただし、自分の消しゴムが落ちたら負けなので、飛ばし過ぎには注意だ。
今小学生の間でブームになっている。
「くっそー!落ちちまった!」
「だから定規は安定しないからやめとけって言っただろ?」
「お前はやんないのか?」
「お前ずりーぞ!」
「こんなん勝てねーよ!」
「一人で机独占してんじゃねーよ!」
さっきから一人の男子がずっと勝ち続けているようだった。
治は敗北した男子に話しかける。
「なんだよ。そんなに負けるんなら別の人と戦えばいいじゃん。」
「負けたままだと悔しいじゃんか!勝つまで戦う、それが男ってもんだ!そうだろ!」
「いやぁ……でもなぁ……」
治が机の方を見ると、ありったけの消しゴムで机の1/4が埋め尽くされていた。
「ふふふ、これは全部俺の消しゴムだぜ。この無敵要塞『ゴライアス・ノート』に勝てるかな?」
「こうなったらみんなで戦うぞ!」
「よし!みんなでボス戦だ!」
「消しゴムなのにノート?」
「かかってこい。残らず蹴散らしてやる。」
どうやら3人で戦っても勝てないようだ。
彼はまさしくボスの名にふさわしかった。
「くそぉ……やっぱり俺らじゃあ勝てねえのか……」
ちょうどその時だった。
教室の扉が開き、八が教室に戻ってきた。
「お前、いつの間に外に行ってたんだ?」
「ちょっとね。」
八はポケットから消しゴムを取り出し、机の上に置いた。
「ほう、その消しゴムは新品か。だが、やはり初心者。おまえは『ケシバト』を全然わかっていない。」
ボスは八の消しゴムを指差した。
「ケースだよ。お前の消しゴムにはケースがない。ケースは机との摩擦を減らし、滑らかに動ける。ケースがない消しゴムは摩擦が働く分、不規則に動く。俺でも扱いが難しい。ヘタに弾くと机から転がり落ちるぞ?」
八は軽く頷いた。
「いいよ。ケース無くしたから。このままで。」
「ふん。まあせいぜい後悔するといいさ。」
先攻は八だ。
八は右手の指でデコピンの形を作ると、消しゴムの角の方を狙った。
「ほう?角から弾いて回転させる作戦だな?確かに回転させると転がるリスクは下がるが……」
八は力を思いっきり溜め、消しゴムを弾いた。
しかし、消しゴムは1cmも進まず、止まってしまった。
「ふはは。やはりその程度だったか。じゃあ、次はこっちの番だ。行け!『RHD2』!」
『RHD2』は『ゴライアス・ノート』を母艦とする子消しゴムの名前だ。
「あいつ消しゴム全部に名前つけてるぞ!」
ボスは、綺麗に並べられた消しゴムから、青いケースの消しゴムを選んだ。
デコピンの形を作り、力を溜める。
「実はケースがない消しゴムにもメリットがあるんだ。それは机との摩擦が大きい事。これはデメリットでもあり、メリットでもある。摩擦が大きいと動きにくいが、逆に負けにくいということでもある。しかし……」
ボスは消しゴムを弾いた。
「こっちには何体もいるんだ!こいつは所詮捨て駒さ!そうだろ?『SRML』!」
「あれ?さっきと名前ちがくね?」
青いケースの消しゴムが、八のむき出しの消しゴムに向かって真っすぐに飛んでいく。
「これで終わりだ!」
しかし、ボスの消しゴムは無残に弾き飛ばされ、ボスの頬をかすめて飛んでいった。
「……は?」
「うーん、力加減まちがえた。調節むずかしい。」
治は八に尋ねた。
「……まさか、お前また……」
「うん。力を保存してきた。」
「相変わらず何言ってるかわからんけども。」
先ほど教室から出ていった時、体育館で消しゴムを思いっきり投げ、エネルギーを溜めたという。
「バウンドしなかったら成功。床の板と板の間を狙うのがコツ。」
「いや知らんけど。」
八は『ケシバト』を続けた。
「次、僕の番。」
「いやまてまてまて!こんなやつ勝てるわけねえじゃん!おい!ハチ抜きでやろうぜ!」
「そうだなー。こんな遊びでガチになるとか冷めるわー。」
「今度こそボス倒そうぜ!」
「俺の無限戦艦『グレートドレッドノート』は破られまい。」
「だからさっきと名前ちがくね?」
八は彼らを呆然と眺めていた。
「…………」
治は冷静にツッコミを入れた。
「……勝つまで戦うのが男じゃないのかよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます