第4話
十二時四十分、昼休憩となり同期のオス共が外「外行きますか?」と誘ってくる。コイツらと飲みに行くのは絶対に止めておこうと誓う。
「今日は別の方と用事がありまして」丁重にお断りして、目指すのは二階にある社員食堂。それなりの人数が着席するテーブルの奥、おばさん達が製造するメニューは日替わりのそばやうどんが主で、酒を持ち込んだ所でつまみになるものは無い。私の味覚においては可も不可も無い代わりに安いので、社員は外のラーメン屋やロイヤルホスト等で贅沢する者と、少しでも家計を節約しようとここで食べる者に二分される。因みに私はコンビニで買ったおにぎり一個をデスクで孤独に食べる第三勢力だ。
それはどうでもいいけど、食堂で毎回角腐と獺祭が食事をすることは知っており、二人同時に訊けばより質の高い情報を得られるだろうと思い辿り着いた。しかし見つけた紅は一点で、もう一点が見当たらない。
「あれ、角腐さんはご一緒では」一人麺を啜る獺祭に尋ねると「央香は今出先に居るんだよ」と謎を解いてくれる。それはそれで一対一に集中出来て良いか、と納得して今まで同様の事情を話した。
「一次会は二十時零分に終わりその後服屋と本屋を訪れて、あたしと央香は食材を買いに少しスーパーに立ち寄った。二十一時零分から二次会がスタートして二十一時三十分にロゼちゃんは体調不良で退席し、二十二時二十分に閉幕。二十二時四十分に駅で別れた皆と合流した。あぁそうそう、旭ちゃんも一次会終了後に離脱していたね」横浜駅の集合時刻は皆等しいので確実なデータかもしれない。そしてあれ、三次会は幻想だったのかと何故か残念に思う。
「カラオケは行きませんでしたっけ?」
「行かないよ学生じゃあるまいし。あぁただ二次会終盤はその場で歌ったりしていたかな」
「そっちの方が幼いと思いますけど」獺祭には遠慮無しに突っ込めた。
「二十二時五十分、鶴見のロゼちゃんを置いて川崎に着き、メアリちゃんや酔い潰れた旭ちゃんとは別れて二十三時零分に央香と地下街のカフェに入った。二十三時三十分にカフェを出て二人で帰宅、日付を超えるタイミングで最寄りに着いたかな」
「角腐さんと同行していて、私のことは眼中から消えたと」以前から思っていたけどこの二人は付き合っているのか。
「申し訳無いけど、飲み会以降のメアリちゃんは知らない。忘れているだけかもしれないけど」
そんな風に駄弁りながら腹を満たし、推理を構築した。犯人が角腐や獺祭である場合は、獺祭と木根洲の証言が偽となり斜塔の証言が真となり、木根洲の場合は斜塔と木根洲の証言が偽となり斜塔の証言が真となり、斜塔の場合は斜塔の証言が偽となり獺祭や木根洲の証言が真となる線がある。真偽のバランスと酒に耐性のある獺祭の証言を重んじれば、下戸二人がやはり怪しい。
「央香に聞けばより鮮明な景色を描いてくれるかもしれないね」央香と呼ぶ度に作る惚気な顔からは、何日経とうと恋の酔いは醒めないことが分かった。
「いや、獺祭さんのお蔭で頭が解れてきました」
食べ終えた二人は食器を片付けエレベーターに同乗し、手を振る彼女が上階へ昇った。よもや彼女が襲ったとすれば却って角腐に申し訳無い気持ちになる。残る本命のインタビュイーは鳥籠の外、何処に飛んでいるかも分からず今日中には会えそうにない。メッセージを送るかどうか迷うが、後日聞けば良いかと踏ん切りを付けた。
「あそこの店美味かったスよ」男子が甘い声で言い寄ってくる。少しイライラしてきた。
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