第33話 水曜日

水曜日


朝起きるとキッチンでは母がルンルンで朝食を作っていた。


「宗ちゃんおはよ~」

「母さんおはよ~」

「おはよう父さん」

「おはよう宗助」


少し遅れて妹がリビングへとやって来た。


「ねむい~」

「おはようあいちゃん」

「ママおはよう~」

「おはよう愛」

「パパもおはよ~」

「なんだまだ眠いのか」

「だって~」

「寝る子は育つって言うからな」

「え~そんな事あるかな~」


そういわれて少しうれしそうにする妹を見て、この幸せな空間を維持したいと心から思っている自分が居たのが少し不思議だった。

今までならこんなふうには考えた事など無かったのだが、母さんが死にそうになったのを見てたぶん俺の中で何かが変わったのだと思う。


【宗助様】

【どうした?】

【マンションの前に自衛隊の陸尉の方が見えています】

【そう言えばそう言う約束だったな】

【どうしますか?】

【ちゃんと朝食を食べてから行こう、そうしないと怪しまれる】

【かしこまりました】


リリーからの通信が終ると今度は母から脳内通信が入った。


【宗助ちゃん今日は学校よね?】

【ああそうだよ】

【大丈夫一人で行ける?】

【母さん心配しすぎだよ】

【そう?ならいいんだけど】


「はいできたわよ」


脳内通信(テレパシー)と通常の会話切り替えもほぼスムーズにこなしている母、もしかしたら能力の使い方は母の方が先へ進んでいるのかも知れない。

女性の方が話すのはスキだからね。


【宗助様、お母様は私と会話を求めておいでですが、いかがいたしますか?】

【何でリリーに?】

【お母様はROBOスキルの機能から私にも使用したと感づいておられる様子です】

【マジか、でも全部を教えてしまうわけには行かないんだけど…】

【分かりました宗助様の個人的な考えや作戦などのデータは機密事項として、分からないとお答えします】

【そうしてくれ、そうしないと勝手に動かれそうだ】

【かしこまりました、次回お母様が質問して来た時にはそのように対応します】

【頼む】


食事が終ると部屋へ戻り制服に着替える、今日学校へ行けば明日からは又日曜まで休みになる。

俺にとっては10日ぶりの学校なのだが、10日前とはかなり変わってしまった。


【じゃあリリー留守番を頼むよ、活動するときは光学迷彩を使って目立たないようにな】

【かしこまりました】


制服を着て又リビングへ行くとすでに父が玄関から出て行くところだった。


「じゃあ行ってくる」

「はいお弁当」

「おお悪いね」

「もしかしたらお店が閉まっているかも」

「ああ母さんの手料理がお昼も食べられるなんて俺は幸せだよ」

「もう あなたったら」


このやり取りは俺でも聞くと恥ずかしい、だが恥かしいからいやなのかと言われればそんな事は無いと答えるだろう。

この夫婦は15年以上経っても新婚当時と変わらないのは、奇跡だというのも俺は知っている、ネットのデータでは新婚当時の気分を10年以上維持している夫婦は全体の5%と言う話だからだ。


プルルルル

「あら誰かしらちょっと待ってて」


「宗ちゃんに電話よ岩田さんから」

「陸自の岩田陸尉だね」


どうやら予定通り陸自の岩田陸尉がUSBを取りに来たようだ。


「宗ちゃんも行ってらっしゃい」

【母さんリリーとお話できるようにして置いたからね】

【ほんと?やった~~】


そういいながら父の前で俺に抱きつく、恥かしい何故か顔が火照ってしまった。


「行ってらっしゃい」


玄関からエレベーターに乗り父と一緒に1階まで下りる。


「いいな~宗助抱きしめて貰って」

「な、父さんはいつでも抱きしめられるでしょ」

「そ そんな事は無いぞ」真っ赤


全く分かりやすい夫婦だ、だが幸せとはこんなものだろう、俺はこれより少し大人し目の家庭がベストだと思っている、17歳でそこまで考えるのはまだ早いとは思うけど脳をROBO化したせいで、分析や理論的な発想が親父臭くなってしまったらしい。

これはROBO化したデメリットなのかもしれない、少し残念な気がする。

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