第21話 母は売れっ子小説家(だった?)
母は売れっ子小説家(だった?)
エレベーターは4機も設置してあり、管理費だけでも月に2万円と言う高級マンション。
衣装箱を手に持ったまま促されるままエレベーターに乗るとそのまま最上階のペントハウスへ。
このマンションは左右に2棟がつながった形で右側の最上階が母の持ち物、勿論億ション。
つい先日まで月の家賃80万で貸し出していたらしい。
そんな家にこれから住もうというのだ、少し気が引けてしまう。
「本当に良いのかい?」
父も少しビビッているみたいだ、おれも少しビビッているが、この体になってからはさほどビックリはしなくなって来ている。
妹だけはそんな事など知らぬ存ぜぬ、単純にうれしそうにはしゃぐのが印象的だった。
「わーすっごーい」
エレベーターの戸が開くとそこには頑丈そうな扉が一つ、その扉には指紋認証システムと音声認識システムが組み込まれていた。
「ええと指は確か人差し指ね、あーあー本日は晴天なり」
「お帰りなさいませ」
外部スピーカーから女性の声がする、その直後に鍵が開き、取っ手を引くと中はまさに芸能人が住んでいそうな広いリビングそしてアイランドタイプのキッチン、さらに壁には水槽まであり中には熱帯魚が泳いでいる。
勿論ソファも家具も全部備え付けであり、その他にも寝室が4つと多目的ルームそしてお風呂ジャグジーサウナなどなど。
そして窓からは眼下の景色が遠くまで見渡せる。
「うわー金もちっぽ~い」
「でも良くこんな物件押さえられたね」
「だって私のものだから」
「ママってお金持ちだったの?」
後から聞いた事だが、今から10数年前一人の小説家が引退宣言をした、引退宣言と言ってもそれは子育てのため、期間は決めずに一線から退く事にした。
当時恋愛小説で一世を風靡しドラマや映画にもなった小説家が急に引退、結構ニュースでも騒がれたらしいが。
彼女は引退するまでの10年間で数十億と言う収入を得たが、殆ど貯蓄に回す事にしていた。
そして彼女の兄や妹の伝手でその収入を財テクに回していたのだ。
マンションの数は引退した後も増え続け、彼女の持ち物である物件だけでも今では30軒を超えると言う、もちろん運営は兄弟が行なっており、母の兄は今不動産会社を手がけている。
そうしないと固定資産税だけでも数百万をくだらない。
そう言えば定期的に税理士と言う人が毎年出入りしているのは知っていた、何故専業主婦が確定申告しなければいけないのかと言う疑問が高校生ではあまり沸かなかったが。
今になって考えれば至極当然のこと、マンションの利益は年に数千万、さらに既得権益である小説の印税が数千万円毎年彼女の懐へと積みあがって行く。
それなのにこの母はその事をおくびにも出さないばかりか家族にさえあまり話さずにいたのだ。
「だって普通に暮らしたかったんだもん」
ああ確かに有名になると誰もがそう思うし、そうしたいと願う人は少なくない。
その事を父である敦之も全くと言って良いぐらい質問しなかったのだ、まあ元々研究一筋な父は愛する妻に一々質問などせず、不思議にも思わず暮らしてきたのだろう。
「この部屋使っていい?」
「その部屋はパパとママで使うからダ~メ」
「え~けち~」
よりにもよって一番広い部屋を手に入れようとしたらしい。
だがそのほかにも3部屋ありどれも8畳以上ある、この最上階のマンションは8LDK+
ダブルベッドが置ける部屋が3つ、そのうち一つはキングサイズが置ける。
さらに書斎が2つと勉強部屋が2つさらにウォークインクローゼットが10畳近くありかなりの洋服を置く事ができる。
そして風呂は2人が余裕で一緒に入れるぐらいの広さ、ジャグジーは5人が一辺に入る事ができる、そこからはガラス張りで外の景色が見えると言う贅沢な作り。
冷蔵庫も業務用かと思われるサイズのものが2つ、一つは冷凍庫でありそのサイズは通常の冷蔵庫の2倍はある。
冷蔵庫の中身さえ買い揃えれば困る事はほぼ無い状態。
「とりあえずどうする?」
「あそう言えばお買い物は?」
「一応衣装ボックスに入れてきたけど」
衣装ボックスを開けると買い物袋が見えたが、どう考えてもそれだけではとてもじゃないが足りない。
「買い足さないと無理だね、でも調理道具は?」
そう言いながらキッチン近くを探すとそこにはフライパンも包丁も引き出しの中に納まっており、要するに材料さえあれば直ぐにでも食事を作れるようになっている。
すでに電気も水道も繋がっていて、直ぐにでもお風呂に入れる状況。
「じゃあ俺買い物行こうか?」
「じゃあ私も行くわ」
「えっ!」
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