第4話 退院の日
退院の日
「一応まだ歩くのが少しぎこちないので松葉杖を貸し出しますね」
「ああ、ありがとうございます」
「それじゃ元気でね」看護師
「また戻ってくんなよ」隣に寝ていた患者
「鈴木さん彼は事故に巻き込まれたの、そんなにすぐ戻ってきたりしないわよ」
「そうなの?」
隣のベッドに寝ているおじさんはどうやら勘違いしているようだ、たぶんバイクの事故か何かだと思っていたのだろうか。
母はすでに受付で入院費用の支払いをしている、松葉杖をつきながらエレベーターに乗る。
そういえば病院に入院するのは初めてじゃなかったような気がするが、その時はなんでそう思ったのかわからなかった。
「母さん終わった?」
「済んだわよ、まったく保険は後からじゃないと出ないから面倒だわ」
「ああ~相手がまだはっきりとしないからね」
そうエスカレーターの不備による事故だが、点検は正常にしたのかどうか、それに責任はどこがとるのか。
そのあたりは後からじゃないとわからない、しかも自分は生還しており慰謝料もいくら出るのかすら今のところ未定だ。
だから現時点で使える保険は親がかけている保険に頼るしかない、まあうちの親はしっかり俺にも保険をかけておいてくれたので今回の手術や入院費はそちらの保険から全額出るらしい。
病院を出るとタクシーが待っていた、この病院から家へは少し距離がある。
救急搬送されたのは有名な病院だが、家は電車で6駅離れているため、どう考えても松葉杖をついて移動するのは難しい。
いや本当は松葉杖がなくても移動はできるのだが、そうすると道路には足跡がくっきりつくぐらいパワーの抑制が効かなくなるだろう。
一度どのくらいやばいか検証してみないといけないが、今のところその力を使いこなすための訓練が重要ということ。
タクシーに乗っている間もかなりゆっくり動いているし、座った後は逆に動かないように気を遣う。
「ナビさん」
「はいこちらナビゲーションのリリーです」
脳内ストレージにあるナビゲーションシステムに俺は名前を付けた、呼ぶと目の前に現れて挨拶をする。
そして最初はのっぺらぼうで漫画(動かない)なボディだったのが今は極細密ポリゴンのボディに美少女のあのマスク。
目が大きくまつ毛バッチリ服装も美少女戦隊のクロームリリーそのもの。
この仕様は後でも変えられるようだが、今のところ変えるつもりもない、せっかく手に入れるはずだったフィギュアが3Dで目の前に現れるのだから、そのこと自体が奇跡のようなもの。
まるでアニメのヒロインが自分のナビを務めてくれるのだから、これほど贅沢なことはない。
「あのさ、今思ったんだが」
「何でしょう?」
「センサーみたいなものは作成できたりしないの?」
センサー、要は触れたら感じるように設定すること、これができれば体の動きに干渉しタッチを柔らかくできるのではと思ったからだ。
「可能ですね、作成してみましょう」
「頼む」
「設定で洋服は除外しますね」
「ああそうだね、お願いします」
まずは体全体約1センチ手前でセンサーを発動しそこからはゆっくり動くように設定。
その後は使いながら微調整することで人の動きにより近くなって行く。
さらにその精度や感度をいくつかのパターンに分け、5段階に分類。
1・鈍行、おっとりソフト、タッチはゆっくりソフトにそして優しく。
2・並足、そこそこユックリ、やや遅いが優しさは変わらずスピードは普通に。
3・準強、真面目で普通、タッチも普通速さも普通。
4・速強、あわててうっかり、やや早めに速さも上がるため気を付けないと相手が傷つくかも。
5・最強、最強バーンアウト、ほぼスピード重視、相手の物体が動いている状態で使う場合は要注意。
ここまで設定し、後は実際に使ってからさらに微調整していく、そして目から入った情報とセンサーによる位置設定を調整し動きを段階的に変更する。
AからB地点へ動くときに最速で動くから鈍速で動くまでを10段階に設定さらにパターンを5つ。
徐々に早くから徐々に遅くまでと常に早くから常に遅くを追加。
その設定を足と腕の関節それに各指の関節にも設定。
「このぐらいかな?」
「わ わ わ ここまでなさるとは宗助様素晴らしいです、もう使いこなしていらっしゃる」
「まあこのぐらいはできないとね」
脳みそもロボ化されているため計算式や数学関係はほぼ完コピで瞬時に答えが出るようになった。
設定後、指を動かしてみる、一番遅い設定から真ん中の普通と位置付けた設定までを順次試してみる。
すると急に母が声をかけてきた。
「どう?指は動く?」
「ああ大丈夫みたいだよ、でも少し動かさないでいただけでこんなに硬くなるとは思わなかったよ」
「痛くはないの?」
「ああ全然痛くはないよ」
「それなら良かったわ」
約30分の道のりだがその間にもいろんな設定をあてはめ、タクシーの中で少しではあるが体を動かしながら微調整。
タクシーは30分後、懐かしい我が家へとたどり着いた。
「4620円ですね」
「はい」
さすがに電車で6駅離れていてさらに駅から1キロ離れていればタクシー代もそれなりに高く付く。
だが5日ではお年よりみたいに動けるというだけで信号を渡るのもゆっくりとしたもの。
「どう動ける?」
「大丈夫だよ、先に家に行ってて」
「判ったわ」
昨日大まかな荷物は母が持ち帰っていたため、今日持っている荷物は着替えだけだ。
事故当時手にしていた荷物は父がすでに俺の部屋へと運んでくれている。
住宅地手前の信号をゆっくり渡ると、その先を右に回り数メートル進んだところに建っている一戸建て。
庭は殆ど無い2階建ての普通の家だが中は割りと広く妹と俺の部屋だけでなく父の部屋も母の部屋もしっかり確保されている。
いわゆる4LDKと言うやつ。
玄関が開け放たれ門からすぐに中へと進んで行く、センサーを使った微調整をしながら足を進めて行く、歩くときはセンサーだけでなく前後左右の重量バランスもスムーズにする設定をすぐさまナビに言って作らせる。
結果家に入り自室までの間に4種8個のセンサーや緩衝システムを作りそれをオート化、さらに脳内に専門の部署を作りそれらを一本化しデータの伝達ロスを改良。
「ようやく帰ってきた」
「おかえり」
「ただいま」
当然だが父は会社、妹は学校だ、一応母は専業主婦だが母は昔かなり執筆で稼いでいたらしい。
今でも印税が少し入ってくるらしく、父の足りない稼ぎを補填しているらしい。
そこ以外は至極普通の家族。
いや自分がロボ化したためにすでに普通とは言いがたいかな、今はまだロボ化も初期段階でまるで分厚いマニュアルの1ページから5ページぐらいを読み返しているかのよう。
一つ判るといくつかの枝分かれした情報を後のページから見つけては補填して行く、その繰り返し。
一応、後2日は家で安静にしていようとは思うが、それとは別に早く最大、もしくはハードレベルで体を動かしてみたいと感じる。
取り合えず、ロボ化で脳のストレージは覚えたこと見たことがデータ化されるためかなり物覚えも良くなっており、その機能を使用して今後のスケジュールも作ってみた。
順当に行けば3日後にはほぼ普通に歩けて普通に話せる状況まで改善する予定。
その後は3日単位でハードレベルを試験運用する予定、場所は広場や公園を使おうと思っている。
家から数百メートル歩けば公園も広場も結構あり、なるったけ人が居ない時刻を選び訓練しようと思う。
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