第3話 新聞にも出た

新聞にも出た


その事故で死んだのは2人、俺よりも下にいたおじさんと俺の上にいた女性、俺は2人に挟まれるように下敷きになったわけだ。

エスカレーターの階段になっている部分が重さに耐えきれず急激に下へ動き出し俺の上には数十人という人間の山ができたらしい。

そして当然のことながら、新聞に掲載される事件となった。

(秋葉原駅ビルエスカレーターで事故、死者2名、原因は整備不良か?)

点検して3日後の事故だったため管理の責任が問われ、業務を行った会社は損害賠償の責任から逃れられず近く倒産するという。


「まじか~」


病院のべッドには一応完治しているはずの俺が寝そべっている。

まあ事故からまだ3日、診断では何も異常がないとはいえ様子を見るために復活後も数日入院していないといけないらしい。

一応リハビリもしてはいるのだが、俺の場合リハビリは物を壊さないためのリハビリだ。

普通のリハビリとロボ化に対応する訓練がほぼ同じなのが少し笑えたが。


「呂方さ~ん」

「はい」

「リハビリの時間で~す」

「あ もうそんな時間なんですね」

「はい すぐに来られますか?」

「あ すぐいけます」

「それではお待ちしています」


俺はベッドから起き上がると病室を出てリハビリルームへと向かう。

もちろん松葉杖を2つ使ってゆっくりと廊下を移動して行くのだが。

リハビリルームにはすでに数人がリハビリを受けており、一応順番待ちになっている。


「はい おはようございます呂方さん、血圧図りますね~」

「それと体温は…」


「血圧正常体温は36度2分」


スキルロボ、体全体がロボット化するというスキルだが特に外見が変わるわけではなく。

中身の臓器も変化はない。

ただし皮膚や関節そして血管はちょっとやそっとでは痛まなくなっている。

例えば皮膚は柔らかいが一定以上の圧力がかかると硬化してそれ以上の状態変化はしなくなる、もちろん切り傷なんて言うのは全くできなくなり、もしも刀で攻撃されても全く傷がつかなくなっている。

ただしこれらの状態変化は訓練で少し変えられるという。

もしもっと人に、生き物に近い状態にしたければその変化を訓練しなければならない。

今は動くこともできるが少しぎこちない、いわゆる半分ロボットのような動きなわけで、要するに関節が曲がりにくい状態。

ガチャンガチャンという音が出るわけではないが、今俺にロボットダンスをしろと言われればかなりうまくできる自信がある。


「バイタルは正常っと」

「呂方さん歩行訓練からしましょうね」

「はい」


歩行訓練、両側に平行棒のように棒が2本引かれその真ん中を歩いていくのだが。

もちろん歩くことはできるそれはOK、だが関節がうまく動かない、ちゃんと準備体操もして始めるのだが。


「まだ関節が固いわね」

「あ~はい」


数分はその訓練、トレーナーがその様子を見て何か書き込んでいく。


「呂方さんは明日退院ですね」

「もう退院していいんですか?」

「あとは自宅療養でどんどん動けるようになりますし」

「はい」


要するに動けるし普通に生活できるのならば早く退院してほしいといったところか。

まあこのぐらいならば生活に支障はないだろう。

それから20分、運動器具を使用してリハビリを行いその日の訓練は終了した。

ちなみに柔軟はまるで関節がないのではというくらい曲がる、曲がるのだが動きが固い。

まるで油圧で動いているクッションのように感じる。


病室へ戻るとそこには母親が来ていた。


「そうちゃん退院できるって」

「ああさっき聞いた」

「よかったわどうなるかと思った」

「ごめんね心配かけて」

「本当よ、最初この病院に来たときは目の前が真っ暗になったわよ」


そりゃそうだ目の前に息子が寝ていて医者に意識不明の重体だと言われれば誰でもそう思う、しかも2度と目覚めないかもしれないと言われれば尚更。

それが約5日で退院なのだから、地獄行きを宣告されて一気に天国へと行き先を変えられたようなもの。

母は本日荷物整理と明日の退院のことで訪れたという。


「じゃあまた明日来るからね」

「ああ ありがとう」


それからは明日のことや忘れかけていたフィギュアのことを考えた、あの日予約しておいたフィギュアは結局、父に取りに行ってもらうことにした。

発売当日ではなくなったが、予約してあればいつでも入手できるものなので、わざわざあの地に訪れることもないと思い父に頼んだのだ。


父曰く

「やっぱりまだ工事中で立ち入り禁止だったぞ」


まあ当たり前ではあるが、自分が助かり2名死んだという話を聞いて、何も思わないわけではない。

死んだ2名はやはり窒息死だったわけで、2名共に肋骨が押しつぶされ気道もつぶれたために約5分で助け出されたがすでに息はしておらず人工呼吸やAEDを使用しても帰っては来なかったという。

まあ俺もロボというスキルがなければ同じ運命だったわけで、今では何とも言えない気分だ。


それよりも家に帰ってから、その後の方が不安だ、高校2年生 5日いや7日休んで学校へ行ったとしてクラスメイトはどう反応するだろうか?

驚かれるのかいじめられるのか、まあ今まではいじめられていたわけではなく、少なからず友人もいるのでそれほど心配していないのだが。

たぶん歩き方を見て、絶対笑われるかもしくはいたずらはされそうだと思っている。

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