大ルアジュカ山脈編ー4





 えーっと、なになに。




木材に石材、鉄鉱石、石灰石、それから砂利に珪砂、ページを捲ると更にいくつかの鉱物。その他に作業に必要な工具器具備品などが記されていた。




 「――これ、本当に全部必要なのか?」




 「もちろんだよ。これでも最低限必要なものしか書いてないんだからね」






 ……これで最低限?






 正直、家を建てるのにこんなに建材が必要だとは思ってもみなかった。




 建材の種類もそうだが、使用する量も膨大だ。




 家を一棟建てるのに木材だけでも最低50本は必要らしい。




 こんな大量の木材、オルメヴィーラ領のどこから集めてくればいいんだ?






どうしてこうも次から次へと問題だけは湯水のように湧いて出てくるんだ。




 


「なぁ、ノジカ。木材や石材は分かるとして、石灰石は何に使うんだよ」




 「ん? 石灰石? 石灰石はね、高温で焼いてから粉末にして、水、砂、砂利と一緒に混ぜて使うの。最初は粘土みたいに柔らかいんだけど時間が経つと石みたいに固くなる特性があるんだ」




 「へぇ、なるほどな。石灰石ってそんな使い方があるんだな」




石みたいに固まるって事は、要はコンクリートの材料か。




建築に精通しているだけあって、やはりその辺の知識量は豊富だな。




建築家なのだから当然と言えば当然なのだが、今更ながらにひとり感心しているとノジカは怪訝そうに俺の顔を覗き込んできた。




 「ねぇ、ラック。そんな事より建材はいまどの程度用意してあるの?」




 「あぁ、建材、建材ね!」






「……まさかとは思うけど、なにも用意もしてないの?」






 「あははは。まさか、そ、そんな訳ないだろ」






 「用意してないでしょ?」




「はい、ごめんなさい。すっかり忘れてました」




「やっぱり。……あのね、いくら優秀な匠がいても道具と材料がなかったら、それこそ宝の持ち腐れだよ」


 


  「はい、ごもっともです」




  返す言葉もございません。




「それで、これからどうするの?」




「どうするって、そりゃ今から調達するしかないだろ」




「今からって……」


 


「わ、忘れてたんだからしょうがないだろ」




 と、開き直ったものの、一体どうしたものか……。




「――そうだ! 良い考えがあるぞ。クロマ商会に頼んで全部揃えてもらえばいい」




 そうだよ。




こんな時のクロマ商会じゃないか。




「あのさ、そんな簡単に言うけど、どれだけお金かかるか分かってる? そんな大金がこの村にあるとは思えないんだけど」




 「え? 建材ってそんなに高いのか?」




 「そりゃそうだよ。ここに書いてあるものを全部買い揃えたら、ざっと金貨10000枚はくだらないよ」




 金貨10000枚!?




 ゴトーで得た賞金を全部使ったとしても足りないじゃないか。




 「いくら何でもそりゃ高すぎるだろ!」




 「そんな事ないよ。大分安く見積もってこの金額」




 「そ、そうなのか!?」




「うん。魔族との戦いが長引いているせいで、いまはどこもかしこも人手や物資が不足してるからね。下手したらこの金額の倍はするかもしれない」






 倍って、つまり金貨20000枚!?






 無理だ、無理! たとえオルメヴィーラ領をひっくり返したって、そんな金額到底払えっこない。




 俺はちらっと財務担当大臣に目をやると、ラフィテアはゆっくり首を横に振った。


 


 ……ですよね。




 クロマ商会から購入できないとなると、やはり、どうにかして自分たちで資材を調達するしかないのか。


 




 「ラフィテア」




 「はい、なんでしょうか?」




「クロマ商会と連絡を取って、ここに書いてある建材の一部を調達してほしいんだ」




「よろしいのですか?」




「あぁ仕方ない。材料がすべて揃うまで待っていたら時間が勿体ない。当面の間はクロマ商会から買うことにする。その辺の打ち合わせはノジカとやっておいてくれ」




「かしこまりました」




 しばらくの間はこれで作業を進められるが、資金が尽きるまでせいぜい2、3ヶ月がいいところ。




 それまでに何とか自力で調達出来るようにしたい。


 


 


 「なぁ、ノジカ。ここに書いてある鉱物ってのは、どこでも入手可能なものなのか?」




 「うーん、どうだろう? その辺ボクは門外漢だからわからないよ。鉱物に関してはフレデリカの方が詳しいんじゃない?」




 あぁ、確かに。




言われてみたらそうだな。


 


 「ドワ娘、お前どう思う? ここらでも手に入りそうか?」




 「そうじゃな。特段希少な鉱物、というわけでもないし、鉱山さえあれば採取可能じゃろ」




 そうか、それは助かる。




入手できないものが多少あっても、それはクロマ商会から買い付けるから問題ない。もちろん全部自前で揃えられるなら、それに越したことはないけどな。






 んじゃ、あとは鉱山で採掘すればいいわけだ。






 ……ん? ちょっと待て。






 そもそもこの領地に鉱山なんて存在するのか?






 「なぁ、ラフィテア。オルメヴィーラ領に鉱山なんてあったりしないよな?」






 「そうですね。詳しく調べてみないと何とも言えませんが、現時点では聞いたことがありません」






 すべてとんとん拍子で進むとは思っていなかったが、最初の一歩目でけつまずいてしまった。




 鉱山がなければ、自力で調達もクソもない。




まいった。




いきなり出鼻をくじかれ肩を落としてがっくりしていると、ドワ娘は至極当然のようにこう提案した。




 「鉱山がなければ探せばよい」




 「探す?」




 「そうじゃ、探すのじゃ。




――おい、そこのエルフ女。この領地の地図はあるかの?」




 「ラフィテアです!」




 しかめ面をした彼女は手に持っていた資料の束から地図を抜き取るとドワ娘の前に強く叩きつけた。


 


 「なんじゃ、もっと静かに置けんのか。怒りっぽい女は嫌われるぞ」




 「なっ!」




 「冗談じゃ。冗談。そのように顔を赤くするな。さて、これがこの領地の地図か」




 先ほどまでのほくそ笑んだ表情から一転、真剣な顔つきで地図に目を落とすドワ娘に、口撃するタイミングを逸したラフィテアは恨みがましい眼を俺に向けていた。




 








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