大ルアジュカ山脈編ー5





王都から最北東に位置するオルメヴィーラ領は王国の中でも一、二の領土を有している。




にもかかわらず、この領地に住む人は驚くほどに少ない。






理由はいくつかあるが、一つは、この領土の大部分に広がる乾燥帯が原因だろう。




乾燥帯では年間を通して降雨量が非常に少なく、一ヶ月間全く雨が降らないこともざらである。


 


その為、辺り一帯に木々はもちろん、雑草すらほとんど見かけない。




植物がなければ、当然、それらを食べて生きる動物たちもいないのだ。








 とは言え、領土全域に木々や草花が全くないかと言えば、もちろんそうではない。






大ルアジュカ山脈の麓まで北上すれば、そこにはほぼ手つかずの広大な針葉樹林が存在する。




それだけ広大な樹林帯があるのなら林業などで栄えそうなものだが、わざわざ遠方の地で木を伐採し、そこから王都や各地まで木材を運ぼうなどと考える愚か者はまずいない。






それに山脈の麓は一年の半分を雪に覆われる為、人々が生活するには非常に厳しい環境なのである。




まぁ、要はこの領地で人々が生活するには北も南も少なからず過酷というわけだ。








オルメヴィーラ領最南にあるサビーナ村。




存亡の機を乗り越えて多くの人で賑わいを見せるサビーナ村に、もうすぐ秋が訪れようとしていた。




大ルアジュカ山脈の頂を覆っていた雪は日を追うごとに広がりを見せ、気が付けば山脈は輝く白銀のドレスを纏っていた。












「この領地で、もし鉱物資源があるとすれば、恐らくここじゃな」






そう言ってドワ娘が指さした地図には大陸を南北に分断するように描かれた巨大な山脈があった。






「大ルアジュカ山脈ですか」




 つい先ほどまでむくれていたラフィテアだったが、ドワ娘が話始めると途端に顔つきが変わり真剣な表情で耳を傾けていた。






「確かに大ルアジュカ山脈なら鉱物の一つや二つ採掘出来そうだな」




「ですが、あれだけ大きな山脈。そう簡単に鉱脈を見つけられるのですか?」




「普通は無理じゃろうな」




「普通は、ってことは何か良い方法でもあるのか?」






「うむ。ドワーフ族のみが使える特別な探知系魔法がある。それを使えば、例えどんなに巨大な山脈であろうと鉱脈の在処を見つけることなぞ造作もない」




 


「鉱物探知魔法。そんな便利な魔法がこの世には存在するのか。ドワーフたちも闇雲に山を掘っているわけじゃないんだな」




「当たり前じゃ。どこぞの耳が長いだけの種族と一緒にするな」


 


「お前な」






やれやれ。






まぁ、何にしてもこれで鉱物は何とか入手出来そうだ。






 となると、あとは木材の調達をどうするかだけなのだが、実はそっちは一つ心当たりがある。




 まぁ、他に選択肢がないとも言えるのだが……。








 オルメヴィーラ領で木材を入手することが出来る場所と言えば、当然あそこしかない。




 そう、遥か北方に広がる大ルアジュカ大森林。




 


 偶然とはいえ、鉱物資源と木材を同じ一帯で入手できるのだから一石二鳥ではある。




 おかげで少ない人員を分散せずに済みそうなので助かるのだが、勿論問題がないわけではない。






 「ラック様」




 「なんだ? ラフィテア」


 




 「伐採、採掘場所はそこで決まりとして、大ルアジュカ山脈一帯からどうやってこれらの資材を運搬するか手立てを考えないといけませんね」






 そう。




 問題はそれなのだ。






 この世界には自動車もなければ、もちろん鉄道だって走ってない。




 一般的に輸送と言えば馬車になるのだが、ただそれも食糧や衣料品などの比較的重量の軽いものに限られている。


 


 もし仮に荷馬車で運べたとしても数十キロの道のりを片道一週間以上かけ、何百往復もしなければならない。






 川でもあれば船で運ぶっていう手もあるのだろうが、生憎この村の近くに流れている川などない。




 ここがゲーム内なら、鉄鉱石だろうがマホガニー材だろうがアイテムボックスに収納して簡単に持ち運べるんだが……。










 ――ん? アイテムボックス?






 そうだよ。




 俺にはそれがあるじゃないか。






 オンラインゲームではあって当然のシステムだから最近では何も意識せず使用していたが、よくよく考えたらこれって現実世界じゃ確実にチートである。






 もし、ゲームのように使用できるなら輸送問題もこれで一気に解決できる。




 欠点があるとすれば、俺自身がその都度向こうとこちらを往復しないといけないのと俺がいなくなった後どうするかって事か。




 まぁ、その辺の問題は後回しにするとして、なんにしてもどの程度の重さ、大きさ、量を収納できるのか早急に確かめる必要がある。








 「ラック様、どうなさいました?」






 腕を組んだまま固まってしまった俺をラフィテアが心配そうにのぞき込んできた。






 「あぁ、悪い、悪い。なんでもない」




 「そうですか」






 「なぁ、ラフィテア。資材運搬の件なんだが俺にちょっと考えがあるんだ。どう説明したらいいのか困るんだが取り敢えず俺に任せてくれないか?」






 「えぇ、それはもちろん。ではこの件はラック様にすべてお任せ致します」






 「あぁ、任せてくれ」


 




 さて、これで差し当たっての問題はひとまず何とかなるだろう。






 これから色々と細かい問題が出てくるだろうが、それはその都度みんなで協力して解決するしかない。








 「んじゃ、ノジカ、ドワ娘、それからみんな。これから忙しくなると思うがよろしく頼む」








 「うん、任せておいて」 「わかっておるのじゃ」




 「かしこまりました」 「はい、領主様!」 「は、はい」










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