ドワーフ王国のドワ娘姫ー21
「おい、ドワ娘。道はこっちで大丈夫なんだろうな?」
「心配するな。後はこのまま道なりに進めば王城の入り口に着く」
「はぁ、はぁ、はぁ。ね、ねぇ、ラック。ボクもう疲れたんだけど」
「疲れた? んじゃ、その辺に腰を下ろしてちょっと休憩でもするか? まっ、後ろから追いかけてくる鬼が待ってくれるとは到底思えないけどな」
肩を上下に動かし苦しそうに息をしていたノジカはちらっと後ろの様子を窺うと泣き出しそうな顔で前を向いた。
「えーーーーん! もうボク嫌だよぉぉぉぉ!」
「嫌でもなんでも今は兎に角走るんだ。立ち止まったら人生そこで終了だぞ」
「――なぁ、お主。何か策はあるのか?」
「いや、ずっと考えていたけど、正直何もない」
「そ、そんなぁ!? こ、ここにボクを連れてきたのはラックなんだから何とかしてよね!」
「おい、何でもかんでも全部俺のせいにするな!」
とは言えこのままだとジリ貧。本当に遅かれ早かれ追いつかれるぞ。
何が幸運値9999だ。
幸運どころか不幸の連続じゃないか。
「もし、ここで死んだらドワーフの神様を恨むからな!」
「ちなみにドワーフの信仰神は女神様じゃ」
「もうっ! こんな時になんの話をしてるのさ! 男神でも女神さまでもこの際どっちでもいいじゃんっ!」
確かにノジカの言う通り。神様が男だろうが女だろうがどうでもいい。
しかし人間不思議なもので極限まで追い詰められると、逆に頭の中が冷静になってくるもんだ。
「そう言えば城の入り口に大きな女神像が石壁に掘られていたよな? もしかしてあれがそうなのか?」
「うむ、そうじゃ。女神フレイ様とフレイヤ様。美、愛、豊饒そして戦いの女神様じゃ」
戦いは、まぁいいとして美と愛と豊穣ねぇ。
ドワーフ族が信仰するのはもっと武骨で男らしい感じの神様かと思っていたけど、まさか女神さまとはな。
「……お主、なにか失礼なことを考えておるじゃろ?」
「そ、そんなことないぞ」
ドワ娘。
相変わらず、鋭い奴だ。
――ん? 待てよ。
女神、女神様か。
……もしかしたら、アレが使えるんじゃないか?
「急に黙り込んでどうしたのじゃ?」
「なぁ、ドワ娘。
例えば――
なんてことは可能だと思うか?」
「……まったくお主には呆れる。よくもまぁ、そんな罰当たりな事を考えるものじゃな」
「罰当たりね。生きて無事帰れるなら罰くらい受けるさ。まして相手が女神様なら尚更だ
それより出来ると思うか? どうだ?」
「そうじゃな。出来なくもない」
「なんだ。はっきりしないな」
「当たり前じゃ。そのような事考えたこともないからの。……ただ準備する時間さえあれば可能じゃとは思う」
「なるほど」
どうやらほんの少しだけ光明が見えてきた。
「お主、その作戦本気で成功すると思っておるのか?」
「当たり前だろ?」
「その自信は一体どこから湧いてくるのかわらわには不思議でならないぞ」
「そうか? まっ俺は運だけは良いみたいだからな」
「やれやれ。あとで父上にこっぴどく叱られそうじゃ」
「別にそれくらいいいだろ? 死んだら二度と叱ってさえもらえないんだからな」
「それもそうじゃな」
ドワ娘はなにが可笑しいのか俺の背中に顔をうずめると、くすくすと笑っていた。
「ノジカ。俺の代わりにドワ娘を頼めるか?」
「そ、それはいいけど、ラックはどうするの?」
「俺? 俺はこれからあいつのお相手をしなきゃならないからな」
わざとらしく溜息を吐き、首を横に振ったあと俺たちのお尻目掛けしつこく追いかけてくるアレに向かって、突き立てた親指を指さした。
「ほ、本当にやるの?」
「やるしかないだろ?」
「このまま逃げ回っていれば、そのうち諦めてくれないかな」
「それはあまり期待できそうにないな。それに何時間も、下手したら明日、明後日いや一週間、ぶっ通しで走り続ける自信は俺にはないぞ」
「でもでも、街まで出ればなんとかなるんじゃないかな?」
「そうかもしれんが、アレが街で暴れまわったらどうなるか、俺はあまり想像したくないね」
「そ、それは……、うん。そうだね」
そういう意味でもこの城が馬鹿みたいに大きくて助かった。
俺は項垂れたノジカの頭を軽く2,3度、ポンポンと叩いてみせた。
「いまは他に良い方法が思いつかなんだから、しょうがないだろ」
「うん」
「心配してくれるのはありがたいけど、誰かがあいつの相手をしないとな。それともノジカが代わりにあいつの相手してくれるか?」
「へ? む、無理、無理、無理、ぜぇぇぇぇぇったいっ! ムリ!」
「そんなに全力で拒否しなくたっていいじゃないか」
「ラック、わざと言っているでしょ」
「まっ、冗談はこれくらいにしておくとして。
――ノジカ。ドワ娘の事、頼んだぞ」
「わ、わかったよ」
「ドワ娘、俺がなんとか時間を稼ぐから例の件、頼んだぞ」
「うむ、任せるのじゃ」
「んじゃ、俺、ちょっと行ってくるわ」
ノジカにドワ娘を預けた俺はコンビニに買い物に行くような、そんな軽い感じで別れを告げると、二人が離れていく後姿を見ながらトールキンが近づいてくるのを走る速度を落とし待った。
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