ドワーフ王国のドワ娘姫ー13








「ん? ……なんだ。どこかで見た顔だと思ったらお前か、クロマ」






「どうもお久しぶりです、ガイアさん」






「ふんっ、なにがお久しぶりです、だ。もうこの店には来るなと言っただろうが」






「いえいえいえ。これだけの素晴らしい逸品を目の前にそう簡単に引き下がれませんよ。商人という人種はとかく諦めが悪いんです」






「みたいだな」






ガイアは手に持っていた金づちを床に降ろすと忌々しそうにため息をついた。






「クロマさん、お久しぶりです」




「やぁ、タフィー。今日も元気そうですね」




「クロマさんも相変わらずですね」






「あっ、そうだ。実はタフィーにお土産を持ってきたんです」






「えっ、本当!」






「えぇ。馬車に積んでありますから、あとで持ってこさせましょう」






「ありがとう、クロマさん」






「――おい、クロマ」






「はい、なんでしょか? 領主様」






「あんた、この二人と知り合いなのか?」






「えぇ、まぁ一応は。……あれ、言ってませんでしたっけ?」






言ってねぇよ!






「実はガラドグランを訪れるたびに毎回こちらの炎の金づち亭に顔を出させてもらってましてね」






「ふんっ。何度来たってお前にうちの商品を売る気はねぇぞ」






「……と、まぁいつもすげなく断られているんですがね」






クロマは身振り手振りを交えながら、わざとらしく肩を落として見せた。








「そんな事よりクロマ。この不躾な奴らはお前の連れか?」






ガイアは後ろにいた俺たちに向かって顎をしゃくった。






「連れというよりはわたしのお得意様と言った方が正しいですな。こちらはオルメヴィーラの領主ラック様とお仲間のノジカ様でございます」






クロマが恭しく紹介するとガイアは顎髭をいじりながら値踏みするように頭の先から足の先までしげしげと見て、それから小馬鹿にしたように鼻で笑った。






「こいつが領主だぁ? オレにはそこいらのコソ泥と同じようにしか見えねぇな」






「いえいえ、こう見えても立派な領主様なのですよ」






こう見えて、ってどういうことだよ、クロマ。




いや、まぁ確かに身なりがいいわけでもないし、見た目年齢も10代後半だからな。




この外見で領主だと信じる方が難しいかもしれない。








「ふんっ、まぁそんな事はどうでもいい。……それで、そのご立派な領主様とやらがこの炎の金づち亭になんの用だ」








「実は俺達たちここでドワ、いや、フレデリカ達と落ち合う約束をしてたんだ」








ドワ娘の名前を出した途端、ガイアの目つきは先ほどよりもさらに鋭く真剣なものに変わっていた。






「なんで、てめぇみたいな人間の口から姫様の名前が出てくる」










それから俺はこれまでの経緯を詳しく説明し、ドワ娘から預かっていた左手の指輪をガイアに見せた。






「――この指輪、確かにオレが姫様の為に拵えたものに違いない。どうやらお前たちの話、絵空事じゃないようだな」








「今の話、信じてくれるのか?」






「この指輪がある以上、信じるほかないだろ。……それにしてもトールキンの奴、まさかナオグリム陛下の恩を仇で返すような真似をするとは」






 「なぁ、ガイアは今の今までドワーフ王が幽閉されているのを知らなかったのか?」






 「あぁ、そうだ。今初めて知ったばかりだ。周りの奴らもそんな話知らないはずだ」






 「もしかしてまだ誰も知らないのかな?」






 「かもしれないな」






 「ナオグリム陛下は多くのドワーフ達から信望を受けているからな。幽閉されたなんてことが知れ渡ってみろ、たちまちそこら中で暴動が起きるぞ」






 トールキンもそのことが分かっているから公表しない、いや出来ないのだろう。






 幽閉された事実をしっているのはごく一部の者だけ。




 なら今がドワーフ王を助け出す絶好の機会。






 ドワ娘がいれば案外すんなり事が運ぶかもしれない。




 まぁ、その肝心のお姫様が姿を現さないわけなのだが……。








「――ドワ娘のやつ、遅いな」






 「そうだね」






 窓の外に目をやると太陽に照らされ煌々と輝く月は空高く昇り、静まり返った湖面には満天の星空が映りこんでいる。時折吹く風に白波が経ち、きらきらと月光を反射させ幻想的な風景を作り出していた。






 そんな穏やかな月明かりの下を一人ばたばたとした足取りで駆け寄ってくるドワーフの姿があった。










 「ガ、ガイアの親方! た、大変だぁぁぁぁぁぁ!」






 片目に眼帯をつけたその声の主は店のドアを勢いよく押し開けると、息を切らせながら弾丸の様に飛び込んできた。








 「たっくうるせぇなっ。そんなに、慌ててどうした、オルテガ」






 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、た、大変なんです! 親方っ!」






 「あ? だから何が大変だってんだよっ」






 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。と、とにかく、こ、これを見てくださいっ!」






 そう言うとオルテガは筒状に丸められた用紙を懐から取り出しテーブルの上に広げてみせた。






 「……なんだ? こりゃいつも街で配られてる広報紙じゃねぇか。これがどうしたってんだ?」






 「親方、ちゃんと紙面を読んでくださいっ!」








 広報紙に目を通していたガイアは次第に小刻みに体を震わせ読み終えた直後、石の様に固まってしまっていた。








 「なぁ、一体何が書いてあるんだ」






 「……読めばわかる」








 それっきりガイアは下を向いたまま黙りこくってしまった。








 号外と書かれた広報紙の見出しにはでかでかとこう記されていた。




















 ”フレデリカ王女、死去”














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