ドワーフ王国のドワ娘姫ー11




「――わぁぁぁぁぁぁ!」




隣に座っていたノジカは馬が一歩足を進めるたびに感嘆の声をあげ、目を輝かせている。




ノジカは馬車から落ちそうなほど身を乗り出すと、辺りの景色を食い入るように見つめていた。






「ねぇねぇ、ラック。あれ見てよっ!」






「おい、危ないから大人しく座ってろよ」






「あぁ、もうこれはただの建築物じゃないね。もうこれはドワーフの手によって生み出された芸術、完成された造形美だよ!」






ノジカは俺の注意も聞かずうっとりとした瞳で景色を見つめながら建築の何たるかを一人で語り始めていた。






やれやれ。






どうやら俺の声はこいつの耳には届いていないらしい。








まぁ、建築家であるノジカが興奮するのも無理ないのかもしれない。








なんせ素人の俺でさえこの街の美しさに目を奪われるほどだからな。








外に目をやると数多の高名なドワーフの職人たちが築きあげたであろう街並みが目の前に広がっている。






ドワーフ王国の背後にそびえ立つ山から切り出された極上の石材を使って造られた美しい彫刻や建築物の数々。




その一つ一つが細部に至るまで一切手を抜くことなく造りこまれている。






この神秘的な光景を見ていると、まるで自分たちが神の神殿に間違って紛れ込んでしまったかのような錯覚を覚えるほどだ。






「ねぇ、ラック――」






「ダメだ」






「もうっ! ボクまだ何も言ってないじゃないか!」






「聞かなくてもお前の言いそうなことは大体見当がつく。どうせ、一人で街を見て回りたいとか言うんだろ?」






俺がそう指摘するとノジカの黒目が右へ左へと泳ぎだし明らかに動揺していた。






どうやら図星だったようだ。






「あのなぁ、俺たちは観光しに来たんじゃないんだぞ」






「そ、そんなことわかってるけど、少しくらい良いじゃないか」






「駄目だ」




「ラックのけち!」




 


そう言うとノジカはしばらくの間駄々を捏ねた子供の様にぷーと頬を膨らませていた。




 けちってあのな……。






馬車は城門を通り抜けると、なぜか城壁沿いを時計回りにぐるっと一周する様に進んでいく。






「なぁ、どうしてわざわざこんな遠回りをしてるんだ? 確か正面にも道があったよな?」






「街の中央に向かうにはこの道しかないんですよ。城門から真っすぐ続く道は途中に大階段があって馬車では通れんのです」






クロマはやれやれといった感じで小さく首を横に振った。








カラドボルグは実に不思議な形をしている街だった。






街全体がまるで巨大な隕石が落ちて出来たのではないかと思えるほど見事なすり鉢状の地形の中に収まっていて、中央部には大きな湖が広がっているのだ。




その為、馬車が街の中央に行くためには外周を通り徐々に下っていく必要があるというわけだ。






俺たちの目指す”炎の金づち亭”はどうやら街の最下層の工房区にあるらしく、馬車は整備された舗道をゆっくりと駆けていく。








そんな不思議な街の風景をぼーっと眺めていると俺はある違和感を覚えた。






……何かが足りない。






なんだ?






指の第二関節辺りをそっと咥えながら頭の引っかかりに思案を巡らせていると、俺はあることに気づいた。








「なぁ、クロマ。ドワーフの王城はどこにあるんだ?」






そう。




見下ろす先に城らしきものが一切見当たらないのだ。






ナウグリム王は城のどこかに幽閉されているとドワ娘は言っていた。






しかし、目の前には城自体が存在しないのである。






俺が眼下に広がる街を覗き込んでいると、クロマが俺の肩を叩きそれから下ではなく正面を指さして見せた。






「お城でしたら、ほら。目の前にあるではないですか」






「目の前って……。




まさか、あれが城なのか!?」










クロマの指した先に城などと呼べるものは存在していなかった。






そこのあるのは、そう、巨大な山そのものだった。




 




「はい。わたしも実際に中に入ったことはないんですがね、なんでも鉱山の跡地を長い年月をかけ王城に作り替えたって話ですよ。最初話を聞いたときは俄には信じられませんでしたがね」






さすが大地と共に生きるドワーフ族。




まさか山を丸ごと自分たちの城にしてしまうとは恐れ入る。


















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