鬼才建築家ノジカ編ー9






「――おい、聞いたか? バーデンの野郎、このゴトーの街を賭けるって言いやがったぜ!」




「あぁ、もちろんだ。この会場にいる全員がしっかりはっきり聞いたぜ」






「こりゃ、ますますあの兄ちゃんに賭けるしかなくなったな」






バーデンの一言で会場のボルテージは俺たち二人を他所に最高潮へと達しようとしていた。






このバーデン、領主の息子という立場を利用してゴトーで余程好き勝手に振舞っていたのか、はたまた人に嫌われる才能の持ち主なのか。








スクリーンに映し出された俺への賭け金が見る見るうちに増えていく。






「なんだが随分盛り上がって来たな」




「ふん、愚民どもが。今のうちに騒いでいるがいいさ」




「それで、なにで勝負する?」




「そうだな。ここは一つ王道のブラックジャックと行こうじゃないか」






バーデンは懐からドグロの描かれたカードの束を取り出すと、テーブル中央に無造作に置いた。






ブラックジャックとはトランプを使用したゲームの一種で、カードの合計が21を超えないように高い点数を目指すゲームである。






「ただし、これからやるのはゴトーの特別ルールだ」






バーデンは歯茎をむき出しにニタリと笑うと、手に持っていたカードをテーブル一面に神経衰弱の様に並べ始めた。




「使うのはこのカード52枚。やり方は基本同じだが、カードは交互に自分で選びとる。そしてお互いカードを取り終わった所で勝負だ」




「なんだ。ルールはそれだけか?」




「いや、まだあるぜ。 一度使ったカードは場には戻せない。カードがなくなるまで勝負は続けられ、最終的に勝ち星の多い方が勝者だ。




どうだ、簡単なルールだろ?」






「なるほど、わかった」






「んじゃ、観客どもが待ちくたびれているようだし、さっさと始めて終わらしちまうか」




 「そうだな」




「先手は俺様から行かせてもらうぜっと」






バーデンは俺の返答も聞かず目の前にあったカードを何の迷いもなく手に取った。




 やれやれ。




さて、次は俺の順番か。




 ここはあれこれ考えてもしょうがない。




俺は適当に右上のカードを手元に引き寄せた。




それから交互にカードを取っていく。




手札がお互い2枚ずつになったところで、さらに追加で引くか考える。






「俺様はスタンドだ」






スタンド。つまりそれ以上カードは引かず手持ちの二枚で勝負するということ。






さて、俺はどうする。




いやいや、まだ悩むところじゃないな。






「俺もスタンドだ」






俺がそう宣言すると、小さくバーデンの舌打ちが聞こえた。






「お二人ともよろしいですか?」






キップルの問いかけにお互い返事はせず、ただ黙って頷いてみせた。








「それではカードを前に」






先ほどまでヤジを飛ばしていた観客たちも勝負の行方に息をひそめ、会場全体が息を呑む音が聞こえるほど静まり返っていた。






「「ブラックジャック」」






二人のカードがスクリーンに映し出されると会場からは、緊張感と安堵感が混ざりあった大きなため息が漏れ聞こえた。










――これで残りのカードは48枚。
















会場が異様な空気に包まれている。






「……おい、おい、おい、マジかよ」






誰もが思わずそう口にしていた。






それもそのはず。






二回戦目も俺とバーデンの二人ともがブラックジャック。






「こ、こんな事ありえねぇ」






先ほどまでの自信はどこへやら。まだ顔には出していないが明らかにバーデンは落ち着きを失っている。






「ちっ、どうなっていやがる」






舌打ちと共にバーデンの額にはうっすら汗が滲み、焦りの色を見せている。






そりゃそうだろう。






なぜなら、俺とバーデンがお互いに3回連続で21を出し続けているからだ。






しかも全く同じ数字のカードで。








結局その後も勝負はつかず、引き分けのままカードがテーブルの上からなくなってしまった。






さすがのバーデンも驚きの表情を隠せないでいる。








どうやらバーデン自身はカードの裏面の絵柄を見ただけで、そのカードのマークと数字が全て分かるようだ。


でなければ21をこんな連続で揃えられるわけがない。






きっとカードの裏面にバーデンしかわからない印の様なものが付いているのだろう。








特別ルールを提案したのも、バーデンが自分で自由にカードを選べるようにする為だろう。








さて、どうしたもんかな……。






この調子だと他のゲームもイカサマだらけだろうな。






俺が高台に飾られた賞金の入った大袋を見上げながら頭をぐるぐる回転させていると、それまで黙りこくっていたキップルがいきなり実況を始めた。






「……ま、まさに決勝戦に相応しい死闘!このキップルもこの様な勝負未だかつて見たことがありません」






なるほど。当然キップルもバーデン側の人間だよな。




本来ならここで決着するはずだったのに、予定通りに事が進まず慌てているのだろう。








どうやらこの大会は最初からバーデンを優勝させるための茶番劇だったようだ。






――そういう事なら、強引にこちらの土俵に引き込んで勝負するまで。






「結局最後まで引き分けだったな、バーデン。




それじゃ仕方ない。今度は俺がゲームを決めるぞ」






「……な、なにを勝手なこと言ってんだ!」






「勝手も何も最初にそっちが決めたんだから、次は俺の番だろ?」






「くっ!」






「うーん、そうだな。なにかもっとわかりやすい勝負で決めるってのはどうだ?」






「わかりやすい勝負だと?」




「あぁ、そうだ。 単純明快、簡単明瞭! この大会の最初にやっただろ?」






 「……最初だと?」




 


 「そうだよ。じゃんけんだ」






「じゃんけんだとっ! そ、そんなふざけた勝負で優勝者を決められるか!」






「ふざけた勝負とは失礼だな。由緒ある勝負方法だぞ。まっ、格式高いかどうかはわからないけどな。それに昔から勝負事と言えばじゃんけんと相場が決まってるんだよ。


――それともなんだ。じゃんけんだとまずい理由でもあるのか?」






「そ、そんな事あるわけないだろ!」






「なら決まりだな」






俺はバーデン達に背を向けると会場全体に届く様な大きな声で観客たちに呼びかけた。






「今からこの大会の優勝を賭けた一発限りの大勝負やるぞっ! みんな、俺と一緒に声を出してくれよなぁぁぁ!」






席に座っていた観客たちは隣同士顔を見合わせるとお互いに頷きその場で一斉に立ち上がった。






よし、これで準備万端。




これでバーデンに逃げ場はない。






「んじゃバーデン。決着をつけようじゃないか!」






「ちょ、ちょっと待って――」






「みんな、いくぞーーー!






「「「最初はグー、じゃんけん――――」」」






数万人の大合唱が荒くれた大波となって舞台、いや会場全体を呑み込んだ。




















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