第20話 鬼才建築家ノジカ編ー7
「――つ、疲れたぁぁぁ」
最後の勝負が終わった瞬間、ノジカは糸の切れた操り人形のように、膝から崩れ落ちた。
「ボク、じゃんけんでこんなに疲れるなんて思ってもみなかったよ」
たかがじゃんけんとはいえ、ノジカにとっては命運をかけた真剣勝負。
さらに一戦ごとに緊張感が増してく。
精神的な疲労が大きいのは間違いない。
「二人ともなんとか勝ち残れてよかったな」
「うん。ラックに出会ってから、ボクの運気は急上昇中だよ」
果たして本当にそうなのだろうか。
ノジカは差し出した俺の手をはにかみながら掴み立ち上がった。
「俺たちを含めて残っているのはたったの16人か」
「最初はあれだけ大勢いたのに大分減っちゃったね」
「そうだな」
壇上の中央で辺りを見渡していたキップルはすっきりした会場を見て満足気な表情を浮かべている。
「見事最後まで勝ち残った皆さま、こちらの壇上にお集まりください」
キップルの渇いた拍手の音が虚しく響く中、会場の中央に設置された舞台に残った16人が次々と上がっていく。
どうやら、これでようやくスタート地点に立てたらしい。
「皆さま、まずはおめでとうと言っておきましょう。
それから、あのようなくだらないお遊びに付き合わせてしまった事、心よりお詫び申し上げます」
キップルは芝居がかった仕草で被っていた帽子を脱ぐと深々と頭を下げた。
「さて反省の弁を述べたところで、ここからはもう少し面白いゲームを致しましょう」
キップルがパチンッと指を鳴らすと舞台上にいくつもの台が忽然と現れた。
「皆さまには一人金貨500枚をお渡しします。これが皆さまのライフポイントとなります」
係員に手渡された袋が手にずっしりとした重みを与えている。
「ゲームのルールは非常に簡単! プレーヤーはこの16人の中から自由に対戦相手を決め、相手の持っている金貨をゲームですべて奪った方の勝ちとなります。
ゲームを挑まれたプレーヤーは対戦を拒否することはできません。
またどちらかの手持ちの金貨がなくなるまでゲームを終わらせることは禁止です」
要は金貨を賭けたサバイバル戦ってわけか。
金貨が尽きるまでその対戦から離脱することは不可能。
つまりゲームが始まれば必ず一人は脱落してしまう。
「勝ち残るのはたった一人。その手に金貨8000枚を手にした者だけでございます。皆様、何か質問はございますか?」
「ゲームの種類や賭ける金額の設定はどうなっている?」
「ゲームの種類はこの会場に用意されたものなら、どれを選んでいただいても結構でございます。また賭け金に関してはお互いが同じ額を賭けさえすれば、一度に500枚を賭けていただいても結構。ご理解いただけましたか?」
「なるほど、わかった」
「ゲームのルール等の説明は各テーブルにいる担当者に直接お聞きください。
――他に何か質問はございますか?」
キップルの問いに誰も手を挙げず、会場の16人は早くも誰を自分の対戦相手に選ぼうか様子を窺っている。
「どうやらもう質問はないようですね。それでは少々準備がございますので、今から10分後にゲームを開始させていただきます」
キップルはそう言って再び深くお辞儀をするとその場を後にした。
会場のスクリーンに俺たち16人の顔が投影されると、観客席は大変な盛り上がりを見せていた。
どうやら誰が勝ち残るか賭けが始まったらしい。
スクリーンには参加者の顔、名前、倍率と現在賭けられた金額が表示され、瞬く間にその額が増えていく。
「……ボクたち随分と倍率が高いね」
ノジカは倍率に不満なのかスクリーンを見て唇を尖らせている。
「しょうがないだろう? 俺たち所詮運だけで残った素人なんだから」
「むぅ、確かにそうなんだけどさ」
「ノジカ。そんな倍率の事より、他に心配しなくちゃいけないことがあるんじゃないか?
――ほら、周りを見てみろよ」
「……なんか、全員ボクたちのこと見ているんだけど」
14人全員の熱い視線が俺たち二人に注がれていることに気づいたノジカは、俺の袖をつかんで慌てたように背後に隠れた。
「なに、なに、なに、怖いんだけど!」
先ほどの説明じゃ、賭けを挑まれたプレーヤーは決して断ることが出来ないと言っていた。
となると真っ先に標的になるのは倍率の高い素人の俺たちなのだろう。
「俺たちどうやらモテモテみたいだな」
「全然嬉しくないんですけど!」
ノジカは近づく相手に牙を見せ、敵意むき出しに威嚇している。
「まぁ、あれだ。お互い運を天に任せるしかないな」
「ボクの運命はギャンブルの神様次第か」
ノジカが一人ぶつくさ言っていると、突然、会場内の灯りがすべて消え、スポットライトが俺たちのいる舞台を明るく照らしだした。
「どうやらそろそろ開始の時間みたいだな」
「――皆様大変長らくお待たせいたしました」
舞台中央に目をやるといつの間にかタキシードに着替えたキップルが姿を現していた。
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