第16話 鬼才建築家ノジカ編ー3





ガンツの声に周りにいた客たちが俺たちのテーブルの周りに集まりだしていた。





「これが勝っても負けても最後の勝負だ」


「そうだな。なぁお前がカードを配る前に、一度だけ俺にカードを切らせてくれないか?」


「あぁ? なんだ、お前。俺のこと疑っていやがるのか?」


「そんなんじゃないさ。ただお前ばかり、カードを触っているから不公平だと思っただけさ」


いや、まぁ完全に疑っているんだけどな。


「それとも何か? 俺がそのカードを触っちゃまずい理由でもあるのか?」


「な、なに言ってやがる。そんなわけあるか! ふ、ふんっ。好きにしたらいい」


「そっか。そりゃよかった」


例によってガンツは見事な手さばきでカードをシャッフルしていく。


うむ。やはり素人じゃイカサマを見抜くのは難しいか。


とはいえ、これだけ周りに人の目があるんだ。


ガンツと言えど大胆なことは出来ないだろう。



「――ほらよ」


俺は目の前に置かれたカードのちょうど半分あたりで二つに分けると残ったカードを手に取りカードと入れ替えて重ね、テーブルの真ん中に戻した。



「はぁ? それだけでいいのか?」


「あぁ、これでいい。ちょっとしたおまじないみたいなもんだからな」


「正真正銘最後の勝負だ。どんなカードを引いても文句言うんじゃねぇぞ」


「わかってる。お前こそ負けて半べそかくんじゃないぞ」


「ふんっ! 言ってろ」


後ろで見ていたリオレアが心配そうに声を掛けてきた。


「おい、大丈夫なのか?」


「どうかな」


配られたカードを手に取ると俺より先にリオレアが落胆の声を上げた。


またまたブタか。


で、相手はというと……。


ガンツは満面の笑みを浮かべ、後ろにいた客から驚きの声が漏れている。


なんてわかりやすいんだ。



「今回こそ勝ちはもらったな」



そう言うとガンツは交換もせずに周りの野次馬たちに見せびらかすようにカードを並べた。



エースのカードが4枚とクローバーの9。つまりフォーオブアカインド。


ちなみにポーカーでフォーオブアカインドの出る確率はたったの0.02%。



「さぁどうする。降参するか?」


「まさか、勝負はまだわからないだろ?」



「素人が笑わせてくれるぜ。こっちはフォーオブアカインドだぜ。


勝てるわけねぇ」



「最後までやってみないと分からないだろ」



手持ちのカードすべてを場に捨てると、山から順番にカードを引いてガンツの前に並べた。



「あ? なんのつもりだ」


「俺が勝っているか、それともお前が勝っているか。


――その答え合わせだ」


「ふ、ふん。はったりかましてんじゃねぇよ。お前が勝てるわけねぇ」



ガンツはごくりとつばを飲み込むと恐る恐るゆっくりと右端から一枚ずつカードをめくっていく。




一枚目、クローバーの10。



二枚目、クローバーのジャック。



三枚目、クローバーのクイーン。



四枚目、クローバーのキング。



一枚めくるごとにガンツの顔色が悪くなり、観客たちのどよめきが徐々に大きくなっていった。



しかし四枚目をめくった時点でガンツはほっと安堵の色を浮かべ、ニヤリと笑った。



「なかなか面白い演出だったな。――だが、どうやら幸運の女神はお前の頭上には降りてこなかったようだな」



周りの観客たちもガンツの言った言葉の意味を徐々に理解をし始める。



「最後の一枚は捲らなくても俺の勝ちは決まった。流石にお前でも理解できるだろう?


こちらの手札にはクローバーの9とエースがある。


つまりはお前の手はどうあがいたって最高でもワンペアってことさ」



周りで見ていた野次馬の客たちは既に決着がついた勝負に興味を失い席に戻っていく。


「最高でもワンペアね……。なぁ、ガンツ。最後のこの一枚を開けるまで勝負はつかないはずだろ?」


「そりゃ、そうだ。確かにおまえの言うとおりだ。だが、開けなくても雌雄は決していると思うがな。まぁ、せいぜい結果を見て落胆しろ」


 そう言うとガンツは俺の目の前に置かれた最後の一枚を勢いよく捲って見せた。



「……う、そ、だろ」



カードを見てガンツは言葉を失い、そして手に持っていたグラスを思わず地面に落とした。




グラスの割れる音に気付いた客の一人がテーブルの上を見て驚愕した。





ジョーカー




最後の一枚は道化師の描かれた不気味なカードだった。



数十枚の中でたった一枚しかない。


どんなカードにも化けられる最強最悪のカード。



「ストレートフラッシュ。


――どうやら俺が勝ったみたいだな」



ガンツは目の前の光景が信じられないようで、椅子に腰を下ろすとしばらく呆然と座り込んでいた。



「んじゃ約束だ、ガンツ。ノジカの居場所教えてもらおうか」


「こ、こんなのはイカサマに決まってる!」


「おいおい。言いがかりは止めてくれ。


このカードを用意したのはお前だし、俺はたった一度カードに触っただけだぞ」


「う、うるさい!」


ガンツは店内中に聞こえるくらい大きな声で叫ぶと、勢いよく立ち上がりテーブルを力いっぱい叩きつけた。



「おいおい、ガンツ落ち着けよ。いくら負けたからって……。


――おい、てめえこそイカサマしてんじゃねぇか!」



「あ? 何言ってやがんだ。俺がイカサマなんか……」


客の視線に気づいたガンツが床に視線を落とすと服の裾からこぼれ落ちたカードが散乱していた。


「ち、違うんだ。こりゃイカサマじゃねぇ。これは、そうっ! なにかの間違えだ!」


「はぁ? 間違いだぁ? そんな訳の分からねえ言い訳通用すると思うか!」


ここぞとばかりに飛び出してきたリオレアがガンツの腕をとると地面に押し倒し羽交い絞めにした。


「わ、悪かった。た、頼む。許してくれ!」


「許すだぁ? ダメに決まってるだろうが! このまま突き出してやる」


「リオレア、ちょっと落ち着いてくれ」


「これが落ち着いていられるかっ!」


はぁ、なんで俺より興奮しているんだよ。


「突き出すのはいいが、先に話を聞きたいから一旦放してやってくれ」


「ちっ、わかったよ」


リオレアはガンツを解放した後も、牙をむき出しにした警察犬の様に後ろから威嚇している。



「さてと、じゃ早速ノジカの情報を聞かせてもらおうか」


ガンツは痛めた肩を押さえリオレアを睨め付けたあと、苦虫をかみつぶしたような表情で話し始めた。




「――あいつはいまゴトーの地下牢の中さ」



「はぁ!?」



予想もしていなかった情報に俺は思わず声を上げてしまった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る