第15話 鬼才建築家ノジカ編ー2
「て、てめぇ! 人が気持ちよく飲んでるのにいきなり話しかけんじゃねぇよ、ってなんだ、お前か。ガンツ」
リオレアは男の顔を見ると露骨に嫌な顔をした。
「そいつってのはノジカの事か?」
「あぁ、そうだ」
たまたま入った店でいきなりノジカを知っている奴に会えるなんて、どうやら俺はよっぽど運がいいらしい。
「それで、ノジカはどこにいるんだ? 教えてくれ」
「……別に教えてやってもいいが、お前この街のルールを知ってるか?」
「この街のルール?」
「おい、ガンツ! こんな素人相手に――」
「うるせぇ、リオレア、てめぇは黙ってろ」
「ちっ!」
「この街がなんでギャンブルの街って呼ばれているか分かる?ギャンブルの施設が多いのもあるが、それだけじゃねぇ。
――ゴトーじゃすべてが賭けで決まる」
「……要は俺と賭けで勝負しようって事か」
「そうだ。話が早くて助かるぜ。こっちが賭けるのはもちろんお前の知りたがってる情報だ。どうだ、やるか?」
さて、どうしたもんか。
リオレアの態度を見る限り、このガンツって男、ろくな人物でないことは間違いないだろう。
きっと俺の様な素人から金銭を巻き上げている子悪党違いない。
とは言え、この先ノジカを知っているやつに会える保証はどこにもない。
「本当にノジカの事知っているんだろうな」
「あぁ、もちろんだ」
「……わかった。その賭けに乗ってやる」
「へへっ、そう来なくちゃな。で、お前は何を賭ける」
「俺が賭けられるのは金だけだ。そうだな、金貨10枚でどうだ」
「金貨10枚か……。まぁいいだろう。それじゃ向こうの席でやろうぜ」
ガンツは罠にかかった無知な獲物を嘲笑うような笑みを浮かべると店の奥の空いているテーブルを肩越しに親指で指した。
「おい、あんた。いくらなんでも金貨10枚は高すぎるだろう」
「そうか? まぁ勝てば問題ないだろう?」
「いや、そりゃ、まぁそうだけどよ」
「ならいいじゃないか。それに俺にとっては大事な情報なんだよ」
「……お前が納得してるならいいけどよ。だが相手があのガンツだからな」
「あの男なにかあるのか?」
「ここだけの話、あいつはしょっちゅうイカサマをしてるって話だ」
「おいおい、ゴトーでそんなことして大丈夫なのか?」
「いや、イカサマが見つかったら、即、絞首刑行きさ。だからお前みたいな素人や観光客相手にしかイカサマはしない」
「なるほどね」
「止めるなら今のうちだぞ」
俺はキャンドルの灯りを眺めながら顎に手を当て考えていると、なぜかラフィテアの顔が浮かんだ。
――ラック様はもっと考えてから行動してください。
彼女に話したらきっとそう言うに違いない。
ラフィテアの呆れた顔を想像して思わず苦笑してしまった。
「いや、やるよ。ゴトーにいる限り勝負事は避けて通れないようだしな」
「そうか。一応忠告だけはしておいたからな」
「わかってる。ありがとう、リオレア」
俺はカウンター席を立つとガンツの待つテーブルへ向かった。
「そこに座りな」
ガンツに促されるまま、俺は正面の席に腰を下ろした。
「ゴトーじゃギャンブルに勝つことがすべて。勝者が絶対。敗者がなにを言おうとただの戯言。それがここの掟だ」
「なるほど。わかりやすい。要は勝てばいいんだろ」
「まっ、そういうことだ。単純だろ?」
「あぁ、まるでお前みたいだ」
「ちっ、癇に障る野郎だ」
「始める前に確認だが俺が勝ったらお前の知っている情報はすべて教えてもらうからな」
「わかってるさ。勝者が絶対だからな」
ガンツはそう言うと懐から手のひらサイズの箱を取り出すと中からカードを取り出した。
「今回の勝負はこいつを使う」
テーブルの上に扇状に広げられたカードはいわゆる普通のトランプだ。
カードはスペード、ハート、ダイヤ、それにクラブの4種類。
それぞれ2から10までの数字とエース、キング、クイーン、ジャックで構成されている。
ガンツは広げたカードを元に戻すと、慣れた手つきでカードを切り始めていく。
「お前、ポーカーは知ってるな?」
「まぁそれくらいなら」
ポーカーと言えば5枚のカードで役を作って強さを競うゲームだ。
そう言えば社会人になってからトランプなんか久しく触っていなかったな。
学生時代、修学旅行先の旅館で友達とやった時以来かもしれない。
「勝負は基本3回、先に2勝上げた方の勝ちだ」
「分かった、いいだろう」
「それじゃ配るぜ」
ガンツは交互に一枚ずつカードを滑らすように配っていく。
「交換は一回だけだ。まっ、よく考えて交換するんだな」
俺は裏面のままカードを手に取ると、一度深呼吸してから返し確認した。
――ブタか。
つまりノーペア。すべての数字がばらばらで役がない状態だ
「お前からでいいぜ」
ガンツの声に目線を向けると、何かを見透かしたような歪んだ嫌な笑みを浮かべていた。
なるほど、イカサマね。
しっかりと見ていたつもりだが不正は見て取れなかった。
どうやらそっちの技術は目を見張るものがあるようだ。
「それじゃ5枚全部チェンジだ」
「なかなかの勝負師じゃねぇか」
「まぁな」
場に5枚捨てると、上から順番にカードを引いていく。
「俺は一枚交換するぜ」
こちらの順番が終わるとガンツは余裕の態度でカードを一枚交換した。
「んじゃ、勝負といきますか」
ガンツの目の前に並んだ手札はスリーカード。
なかなかの役だ。
俺は手に持っていたカードを一枚ずつテーブルに並べていく。
「ちっ!」
カードを見たガンツは鋭く舌打ちした。
俺の手札もスリーカード。
つまりは引き分け。
うむ、イカサマしているという証拠はないが、あいつの態度を見ていると何かやっているのは間違いなさそうだ。
「けっ。さっさと、次の勝負に移るぞ」
ガンツは明らかに不機嫌な様子で再びカードを切り始めた。
――2回目の勝負。
どれどれ。
カードを手に取るが、やはり今回も手札はブタである。
俺は再びカード5枚全部を交換。
一方ガンツはというと、今回は一枚も交換せず場にカードを伏せた。
「今回は勝たせてもらうぜ」
自信満々に場に置いたカードはフルハウス。
なるほど、先ほどよりもかなり強い役だ。
「早くお前のも見せな」
俺の表情を見て勝ちを確信したのか、ガンツはエールをぐいっと飲み干した。
「……悪いな、俺もフルハウスだ」
「なっ、そんな馬鹿な!」
ガンツはその場で立ち上がり二度、三度自分と俺のカードを見比べると、思わず大きな声を上げた。
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