第11話 オルメヴィーラ領開拓編ー7




「――領主様、少しよろしいですか」


「ん、なんだ? ラフィテア」



彼女はつい最近俺の秘書になったエルフ族のラフィテアだ。



ここ何日か一緒に行動していてわかったことだが、彼女は非常に頭が切れる。


書類整理や計算などの事務処理は勿論の事、たった数日の間でいまこの村が抱えている問題点を的確にまとめ、その改善案まで提示してくれたのである。


また俺の考えをある程度汲み取り先んじて行動くれているので、仕事がこの上なくスムーズに進む。



なぜこれほど優秀な人物がわざわざこのサビーナの村に移住したのかが大いに謎である。


今度機会があったらそれとなく聞いてみようと思う。





「最近、農作物の収穫量が安定してきていますので、一部を交易に回してはいかがでしょうか?」

 


「交易か。いいかもしれないな」


食糧の貯えもそれなりに出来たことだし、必要以上に抱えていても腐らせるだけだろう。それに正直、手持ちの金貨も丁度心許なくなってきた所だ。



「魔王軍との戦いが長期化しているせいで、王国全体の食糧やその他の物資の供給がかなり不足しています。今なら平時の2、3割の高値で売れるかと……」


「たしか今日の午後、クロマ商会が商談に来る日だったな」


「はい、その予定です」


「それじゃそれまでに交易にまわせる農作物のリストをまとめておいてくれないか」



「――それでしたら既にこちらにまとめてあります」



彼女はそう言うと右手に持っていた書類の中から数枚の資料をテーブルの上に置くと、少し下がった眼鏡を指先でそっと押さえてみせた。



さすがラフィテア。


仕事が早くて本当に助かる。




「そうだ、ラフィテア。ラフィテアに今のとは別件で一つ頼みがあるんだ」


「はい、なんでしょうか?」


「サビーナでなにか新しい商売を始めたい者がいたら、俺が資金を提供してやると村人に伝えてほしいんだ」


「どんな商売でもよろしいのですか?」


「もちろん俺が面接をして良いと判断したものだけだ。 それに貸した金は後できちんと返して貰う。まっ、利子は取らないけどな」


「わかりました。近日中に村人全員に周知いたします」


「よろしく頼むよ」



それから数日も経たないうちに希望者が複数名面接に訪れた。


希望があった職種は鍛冶屋、仕立て屋、食堂、薬屋、雑貨屋だった。


当面の資金援助を約束してやり、出来るだけすぐに商売を始められるようにクロマ商会も紹介してやった。



 これから街を発展させていくのに農業一辺倒という訳にはいかないからな。





「――ラック様、領地経営がうまくいっているようで何よりですな」


クロマは俺の顔を見るなりわざとらしく満面の笑みを浮かべ手を揉み始めた。


クロマ商会は商談の為に二か月に一度サビーナ村を訪れていた。




「いやはや、あのサビーナ村がこれ程までになるとは、さすが領主様ですな」



「そんなおだてはいいから仕事の話をするぞ」


「おだてるなどとんでもない。本心からそう思っているのですよ」


「そうかい。そりゃどうも」


「では時間も勿体ないですし、早速商談を始めましょうか」



「今回もこの用紙に書いてあるものをそろえて欲しい」



「はい、いつもありがとうございます」


「それから今回は別の要件があるんだが……」


「それならラフィテア様からお話を伺っております。なんでも交易を始めたいとのことで――」


「そうだ。ある程度まとまった量の作物が収穫出来そうだからな。クロマ商会に仲介を頼みたいんだ」


「それは、それは。こちらとしても願ったり叶ったりで」


「それで、品物は見てもらえたか?」


「はい、先ほどラフィテア様に一通りの品物は拝見させていただきましたが、どれもこれも品質的には問題ない、いやここ最近じゃ、あれほどの出来のいい物はなかなか手に入らないくらいです」


「それはよかった。ならこの話受けてもらえるのか?」


「こちらからお願いしたいくらいですよ」


「ではさっそくだが、値段の交渉をしようじゃないか」



「お手柔らかにお願いいたします。それで、領主様の希望額はおいくらで?」


「――このくらいでどうだ?」



俺は事前に用意してもらってあった価格表をクロマに手渡した。


クロマは紙に目を通すと意想外な顔をして、何度も何度も見返していた。


「……商売人のわたしが言うのもあれとは思いますが、こんなに安くてよろしいのですか?」


「いいんだよ」


相場に関しては事前にラフィテアに調べてもらってあった。


分かったうえでわざと相場の3割ほど安い値段を提示してある。



「……その代わりといっちゃなんだが、一つ頼みがあるんだ」



「まぁそうでしょうね。タダより高いものはありませんからな。……でその頼みとは何なのでしょうか?」



「一つはこの村の交易品を優先的に取り扱ってほしい。それからサビーナ村への移住希望者がいたら、ここまで荷馬車に乗せて連れてきてほしいんだ」


「はぁ、そんなことでよろしいので?」


「そうだ」



これからどんどん村を大きくしていくにはやはり有能な人材が必要だ。その為にもクロマ商会にはオルメヴィーラ領の宣伝をいっぱいしてもらいたいのだ。


「人が増えれば必要な物資も増えてくる。これからもよろしく頼むよ」



「はい、もちろんでございます。今後ともクロマ商会をごひいきに」


 「あぁ、よろしく頼む」


俺は手を差し出すとクロマとがっちり握手を交わした。




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