第7話 オルメヴィーラ領開拓編ー3
これで当分の間飲み水の方は大丈夫だとして、あと問題は食料だな。
ユークリッド王からもらった金貨で食料を調達すれば急場は凌げるかもしれないが、お金だって無限にあるわけじゃない。
これから先の事を考えると、どうにかして自給自足しなければならない。
とはいえ、この痩せて荒れ果てた土地。
どうしたもんかな。
俺は朝からただひたすら、あーでもない、こーでもないと独り言をぶつぶつ言いながら村の中をぐるぐると歩き回っていた。
うーん。
……いくら考えてもいいアイデアなぞこれっぽっちも出てこない。
そりゃそうだよな。
俺は農業や農地に関して専門的な知識を持ち合わせているわけではない。
無い知恵を絞るようなもんだ。
誰かそういう事に詳しい人がいないもんかな。
はぁ。
せめてスマホでもあれば、検索して調べることができるんだけどな。
……検索、検索か。
そう言えば確かアザーワールド・オンラインのシステム画面からオンライン検索出来たよな。
俺はシステム画面を開くと右下にあった検索欄に”農地づくり”と入力し、目を瞑り心の中で手を合わせると、検索ボタンをそっと押した。
――頼む、頼むぞ。
俺は瞑っていた目を片方ずつゆっくりと開くと、恐る恐る画面を確認した。
検索結果:43500件
マジか。
画面には4万件以上もの検索結果が表示されていた。
……本当に検索出来たよ。
この世界は一体何がどうなっているんだ?
――でも、これで食料問題もなんとかなるかもしれないぞ。
俺はトップページに表示された何件かのサイトに目を通すと、農地づくりの方法とそれに必要な物を順番に書き出していった。
ふむふむ、なるほどな。
どうやら必要な道具はこの村にあるものでなんとかなりそうだ。
ということは今一番必要なのはやっぱり人手か。
農地を耕すにしても人手が足りな過ぎる、特に若者の。
まずはそこをなんとかする必要があるな。
さて、どうするか。
まぁ、答えは至って簡単だ。
いないのなら連れてくればいい。
もちろん無理やりにではない。
それなりの対価を払ってきてもらうのだ。
そうと決まれば隣の領地まで行って、働き手を探してこよう。
俺はぐるぐる回っていた足を止め身体を反転させると、馬車の止めてある馬房へと向かった。
せっせと馬車の準備をしていると村長が数人の村人を連れて駆け寄ってきた。
「領主様どこかにお出かけですか?」
「ちょっと隣の領地の街までな」
「ドウウィンに? そんな遠くまで何をしに行かれるので?」
「ちょっとした買出しだよ」
「そうですか。ところで領主様、なにかわたしたちにも手伝えることはございませんか?」
「手伝えること? うーん、今は特にない……。いや、そうだな。この紙に書いてあるものを俺が戻ってくるまでに揃えてくれていると助かる」
「……これを、ですか?」
紙を覗き込んだ村人たちは一様に頭の上にクエスチョンマークを浮かべ不思議そうな顔をしていた。
「そうだ。必要なものだから頼んだぞ」
なにか聞きたそうな顔をしていたが一つ一つ答えるのも面倒なので、俺はさっさと御者席に座ると馬車を走らせた。
サビーナ村から3日ほど馬車を走らせた所にドウウィンという街がある。
この街はオルメヴィーラに隣接するエンティナ領で一番大きな街らしく、街の中央にある大通りにはいくつもの露店が立ち並び、多くの人で賑わっていた。
ドウウィンの街での目的は二つ。
一つ目はサビーナ村への移住者を見つけること。
まず一番大事なのがこれだ。
農地づくりに人手が必要ということもあるが、オルメヴィーラ領地に住んでくれる領民がいなければ領主もクソあったもんじゃないだろう。
とは言え、あのサビーナ村への移住希望者を見つけるのは簡単な事じゃない。
そして二つ目は食料の調達。
どんなに早くても作物の収穫に半年は掛かるだろう。
それまで何も食べないという訳にはいかないので、ドウウィンの街である程度の食料を買って確保しておく必要がある。
農作物が安定して収穫できるまではさらに一年以上かかるだろうが、こればかりはしょうがない。
俺の手元には王様からもらった金貨が500枚ある。
これだけの額があれば今の領民の人数なら、まぁ事足りるだろう。
以上が今回のミッションである。
さて、まずは簡単な方から片付けてしまう事としよう。
俺は露天商に聞いたこの街一番の商人だという男の元を訪ねることにした。
「――クロマというのはあんたか?」
「はい。わたしがそうですが、あなたは?」
返事をした男は小柄ではあるが、がっしりとしていて恰幅がよく、髪や髭は綺麗に整えられ、手入れの行き届いた身なりをしていた。
「俺はラック。オルメヴィーラ領地の新しい領主だ」
「へぇ、あのオルメヴィーラの新しい領主様ですか、そりゃご苦労なことで。
……それでその領主様がこのわたしに何か御用でしょうか?」
「あぁ、これから定期的にサビーナ村に食料品や生活用品を届けて欲しいんだ」
「サビーナ村に? それは構いませんが、旦那。お金はちゃんとあるんでしょうね」
俺は黙って懐から金貨の入った袋を取り出し、クロマの前にポンと置いた。
「前金で金貨50枚払っておく。
あとは、その都度支払いをする。
とりあえず、これだけあれば十分だろう?」
「これは、これは、ありがとうございます、領主様」
クロマは目の前に置かれた金貨を見るなり急に満面の笑みを浮かべ手を揉み始めた。
「これが注文のリストだ。
出来れば早めに揃えて届けてくれると助かる」
「はい、かしこまりました。
このクロマ商会のクロマが責任をもって迅速に手配、お届け致します」
「あぁ、よろしく頼むよ。
――そうだ。
一つ聞きたいんだが、この街で人が多く集まりそうな場所はあるか?」
「そうですね。
中央広場なんか露店も多く出てますし、昼夜問わず人通りは多いかと」
「中央広場か。
わかった、ありがとう」
俺はクロマとの商談を終えると、教えてもらった中央広場へと足を向けた。
ドウウィン中央広場に向かう道すがら、街の至るところで物乞いの姿が目についた。
しかもその大半がまだ年端も行かぬ子供たちである。
買い物ついでに露天商に話を聞いたところ、魔族との戦いで親を亡くした子供たちが大勢いるのだという。
よくよくこの街の人たちの顔を見れば、どことなく暗く沈んだ顔をしている。
きっと長引く魔族との戦いのせいで、人々は徐々に疲弊していっているのだろう。
……どこの領地も色々と問題を抱えてそうだな。
露店で買った鶏肉らしき串焼きを羨ましそうに遠くから見つめてくる子供たちがいたので手招きして全部くれてやった。
ボロボロの人形を握りしめていた少女は何度も何度も頭を下げると一緒にいた弟らしき子供たちと一心不乱に串焼きを頬張っていた。
あんなに小さい子供たちがまともにご飯も食べられない社会なんて絶対どうかしているよな。
俺は聖人君子でもなければもちろん神様でもない。
ゲーム内の職業だって盗賊だし、リアルじゃろくな生活を送っていない。
だけど、やらなきゃいけないことの分別はこれでもつくつもりだ。
――やれやれ。
あいつらに魔王討伐を任せて俺だけのんびり、って訳にはいかないか。
んじゃ、気合入れて一丁やってやりますか。
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