第7話 疑惑は深まった
もしや、これはあの……!?
令和四 (2022) 年五月上旬、自分史上最大の体調不良を経験した。
時はGW真っ盛り。
五月に入って、なんとなく全身がだるい日が続いていた。しかし、気のせいと思い、放っておいた。
そして、それは突然やって来た。身体の中で密かに増殖していた何かが、満を持して攻撃を始めたかのように。
朝、目覚めるものの身体を起こせない。重い。地球の重力が半端ない。熱っぽい気がする。胸が苦しい。頭が痛い。天井が回っている。何気に目が痒い。
不快な症状が一度に襲って来た。
何なんだ、これは!?
それでも、どうにか起き上がって洗面所までたどり着いた。
―――― !?
鏡を見て仰天した。
白い! 白いのだ、皮膚が。
血の気がないと言うよりは、生気がない。まるで死者そのものと言った白さだ。
「これが、自分?」
思わず鏡に向かって呟いた。
明らかにおかしい。身体に異変が起こっているのは間違いなかった。
では、いったい何が?
持病はない。インフルエンザに罹ったこともなければ、ワクチンの類を接種したこともない。
そう、例のワクチンでさえも。未だに、ただの一度も。
身体に起きている異変にどう対処すべきか。
熱を測ろうにも体温計は長い間電池切れのままほったらかしだ。薬類の持ち合わせはない。健康に自信があるというよりは、ただ無頓着なだけである。
多少の不調はほとんど気のせいと断じ、気合と根性でこれまで乗り切ってきた。
しかし、今回ばかりは、それは難しいと身体が訴えていた。
もしや、これはあの……!?
そこで一つの疑惑が浮かび上がった。
これはあの…… COVID-19 なるものではないか? と。
感染したのだろうか?
しかし、その可能性は極めて低い。何故なら、誰とも濃厚接触はしていないし、外出時は、常に長袖長ズボン、マスクにサングラス、手袋といった万全の装備を欠かさない。
それでも、感染は避けられなかったというのか。所詮、マクロの防衛はミクロの脅威を前にしてザルに等しいということか。
それにしても納得がいかない。ウィルスごときに自分が敗北することが。
否、まだ確定したわけではない。そうでない可能性だってあり得る。単に疑惑の段階にすぎないのだ。
具合悪いアピールで周囲に心配をかけたくない自分としては、その時点では、独力で謎の体調不良と闘う気でいた。
しかし、そうこうしている間にも景色がぐるぐる回り始め、目はチリチリし、耳鳴りがひどくなっていった。四肢が痛い。身体が重い。息が苦しい。肺か? 心臓か?
自分の身体がこんなことになるとは!
珍しい。そして、ちょっと……面白い。
初めての現象に遭遇して変なテンションになっていた。
とりあえず、再び布団にダイブした。
もしかしたら、このまま……死んでしまうのだろうか。
瞬く間に、極端なマイナス思考が脳を席巻し始めた。
もう、この肉体は終わるのだ、と。
腹の上で手を組んで目を閉じた。
お花畑は見えてこない。ましてや三途の川も。
お迎えに来て欲しいとしたら、祖母と父と愛犬。在りし日の彼らの姿を回想して泣けてきた。
込み上げる懐かしさで息が止まりそうになった。
心臓まで止まりそうだ。胸の苦しみが弥増す。
本当に苦しい!
そこで初めて、病院の二文字が頭をよぎった。
つづく
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