第3話 頑張る、頑張れ

 『頑張れ』『頑張る』

 とてもよく使う便利な言葉。

 私もよく口にします。

 ただ、口にするたびに、微かな後悔に似た気持ちが湧いてくるのです。


「簡単に『頑張る』なんて言葉を言うな」


 まだ子供の頃、母にそう言われたことを今でも覚えているからです。


 『頑張る』とは一義的には外圧や困難に屈せず我慢してやり抜く、耐え抜いてやり抜く、ということ。の思いが濃くて微量ですが悲壮感すら漂います。確かに簡単ではないです。

 だから『頑張れ!』と他人に言うと、困難に耐え抜きやり通せ!といわば命令に近い指示をしているように思えて、胸の裡で少し気が引けるのです。


 災害に被災した方々や病気と闘っている方々に、だんだんと『頑張れ』と言いにくくなる心情というのは、やはり『頑張る』という言葉が本来持つ意味を、改めて感じるからなのではないかと思います。


 よく口にする『頑張る』は、持てる力を(すべて)発揮し努力すること、という二義的なニュアンスが強く、だから気軽に『がんばれー』とか『がんばります』と言えるのでしょう。つまり必死にというより単に激励や鼓舞の意味で使っています。


 この『頑張る』という日本語のニュアンスに、ドンピシャに当てはまる英語はないようです。


 『go for it』

 スポーツの試合などの応援でよく使う言葉だそうで、勝利や記録に向かって一生懸命になっている人に対して、「いいぞ!いけ!」と激励するニュアンス。


 『good luck』はお馴染みでしょう、「幸運を祈るよ!」という激励の言葉。

 『never give up』もよく聞きます。お馴染みでいえば『cheer up!』なんていうのも聞きますが、これは「元気を出して!」ですからちょっとニュアンスが違います。


 『keep it up』は「いいぞ、その調子!」と勢いづける言葉。


 『You can do it!』は「君ならできるよ!」と励ますときに使う言葉。


 『Hang in there』なんていうのもあります。直訳すると「しがみつけ落ちるな」という意味。とても困難な状況だけどなんとか持ちこたえて!と奮起を促すときに使う表現だそうです。これが『頑張れ』に近いでしょうか。


 『Hang in there』を除けば、力を振り絞って必死にやり抜け、という悲壮感はなくて、自分を信じて! 出来るよ! いいよ!という感じで明るいですね。ポジティブです。


 私は長いこと野球をやってきたのですが、そういえば選手同士の激励の言葉に『頑張れ』はなかったような。

 

「いいよぉー、イケイケ!」

「大丈夫よぉ!」

「ナイスボール!」

「ナイスバッティング!」

「ナイスプレー」

「さぁ、行こうぜぇー!」


 みんなが頑張ってきたのを知ってるから、みんなが頑張ってるのがわかるから、敢えてもう頑張れとは言わなかったのかな。

 面白いなぁと思います。

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