第0-2話 人類の味方
魔力だけで言えば、天人を凌駕する力を持つ魔人たち。しかし、フタを開けてみれば、権能の前に魔法すら使わせてもらえない。
「クソがっ……!」
巨躯の魔人マエダが、悔しそうに畳を踏み割った。
周囲に無数の水球を浮かせながら、水を操る天人の青年は魔人たちへと挨拶をする。
「初めましてだな、魔人諸君。俺ぁ、ノオミ。見ての通り、天人だ」
ニカッと笑ったノオミは、続いて、
「今までは静観させてもらってたんだがぁ、事情が変わった。お前たちにゃあ、俺たちに協力してもらおうと思う」
まるで確定事項でも語るように言った。
「……嫌だと言ったら?」
先ほどまで司会進行を務めていたスーツ姿の女性魔人アサギが、ノオミに尋ねる。彼女の問いにノオミが答えることはなかったが、代わりに。
「特派員。……お前たちにとっては、目の上のたんこぶってやつなんだよな?」
「「っ……!?」」
ノオミの言葉に、魔人たちが息を飲む。
何を隠そう、つい先ほど。魔人たちが話し合おうとしていたのが、特派員たちについてだった。
「ここ10年。魔法の研究とデータをもとに力を付けて来て、聞いた話じゃぁ特派員のやつら、ついにここ箱根を奪還する計画を組んでるらしいぞ?」
あり得ない話ではない。魔人たちは、一様に理解していた。自分たちが人類の敵であり、人殺しをしている以上、必ずその時が――終わりが来ると、分かっていた。
それでも生きるために女性を中心に多くの人を軟禁し、子を産ませ、食料を増産する傍らで。魔獣を狩り、食いつないできた。が、それももう限界だった。近場の魔獣たちは狩り尽くしてしまったのだ。
「お前らが生き延びるためには、どうにかして、食料を確保するしかない。その場合、効率よくマナを摂取できる、人の多い場所……都心を襲うのが手っ取り早いよな?」
「それはそうだ。だが、特派員と、それに特警もいる」
個の力では、魔人たちに軍配が上がる。しかし、特派員も特警も、数が多い。単純な数の差で言えば、100倍近い戦力差がある。それに、一般人も拙いながら魔法が使えてしまう。多勢に無勢は、明らかだった。
そんなアサギの指摘に、ノオミがにやりと笑う。
「そうだな。けど、日本にはアイツが居る」
「……アイツ?」
「ああ。何度も特派員によって討伐作戦が行なわれ、それでも生き延びる化け物。日本で最も特派員を知り、特派員を殺している魔獣が、な」
ノオミの言いたいことを理解し、アサギは目を見張る。
「待て。魔人と違って魔獣は知性が低い。連携なんてとても――」
「んにゃ。連携なんてしなくていい。そこに放り込めば、アイツは勝手に暴れて、壊滅的な被害をもたらしてくれる。……そうだろ?」
そうして生まれる混乱に乗ずれば、あるいは……。
「お前たちは特派員を大量に殺せて、しかも食料を確保できるかもしれない。俺たちからは、特派員の大まかな動きを提供しよう。悪くない案なんじゃないか?」
屈託のない笑顔で、大量
ノオミの言った作戦が上手く行くわけがないことは、アサギも分かっている。特派員と自分たち魔人を戦わせ、魔人の数を減らすのがノオミの目的だろうことも。
とは言え、アサギ達に拒否権は無い。ノオミがその気になれば、この場にいる大勢が犠牲になる。いや、全滅もあると、アサギは理解していた。また、付き従うくらいならせめて最期に一太刀……などという考え方を持つ者は、この場に居ない。
箱根は、生を願う魔人たちが生き延びるために身を寄せ合った結果、生まれた町なのだから。死に急ぐような魔人は、箱根にたどり着く前に皆、特派員たちに殺されてしまっていた。
「……分かったわ。私は、協力しましょう。あなた達はどうするの?」
アサギがその場にいる12人……いや、つい先ほど1人減って11人になった魔人たちを見回す。と、反応こそ様々だが、全員が一様に、頷いて見せた。
この場にいる全員、人を殺すことへの
「そうか! そりゃ良かった!」
用件は済んだとばかりに、ノオミが魔人たちに背を向ける。この時になってようやく、窒息した根暗そうな魔人が解放された。もちろん、もう既にこと切れている。
「腹ぁ減ってるんだろ? それでも食っときな」
ノオミの言う「それ」とは、根暗そうな魔人のことだ。魔人もまた多くのマナをその身に有している。人間の魔獣である魔人にとって、自分たち魔人もまた、食料になりうる存在だった。
後ろ手に手を振って去って行くノオミにアサギが苦し紛れに声をかける。
「……てっきりお前たち天人は、人類の味方だと思っていたのだがな?」
太刀打ちできなかったことで溜まった
「ん? 安心しろ、そのつもりだ!」
ノオミはあっけらかんと笑うだけだ。
人類の味方を自称しながら、人類の大量
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