第7章【希望】
第一幕……「祭りの前に」
幕間 希望の担い手
ある日、ある時、ある場所で。1人の少女を取り囲む、複数の黒服たちが居た。少女も170㎝を超える長身ながら、黒服たちは彼女よりもさらに頭1つは大きい。3つ揃えの正装ながら、服の下には引き締まった筋肉があることが伺える。
しかし、少女が黒服たちに物怖じすることは無い。当然だ。黒服たちは、使命を果たすために国から少女に貸し与えられた兵士だった。
「準備の方は?」
少女が、自分の前で
黒く暗い炎を宿す少女に、黒服の1人が俯いたまま口を開く。
「問題ありません。残るは現地にて、『S文書』がある部屋の場所を調べるのみです」
これから少女たちが向かう日本にある機密文書の内容を持ち帰ること。それが、今回、王女である少女――クレアに与えられた使命だった。
自分に与えられた使命を確認したクレアは、一転、表情を年相応の物に変え、優しく微笑む。
「友人たちについても、問題なさそうですか?」
「はい。特にノエ・ホワイトは熱心に日本語を勉強されているようです」
「まあ! そうですか! あの子も日本への留学を楽しみにしているのでしょうね」
友人であり、家族でもある淡い金髪の少年を思い浮かべながら、クレアは楽しそうに笑う。
「それはそうと、彼はノアです。ご両親から
「思わずつい……。申し訳ありません」
砕けた会話は、業務を抜きにしたクレアと黒服たちの素の関係を表しているようでもあった。
「それでは、飛行機に乗りましょうか。友人と一緒に行くことが出来ないのが残念です。……チラッ?」
「我慢してください。今やあなたは王女で、象徴で、国民の希望でもあるのです。一般人と同じ扱いをするわけにはいきません」
むぅっと頬を膨らませる王女クレアを、黒服たちがなだめる。他人が見れば、いい大人が我がままな王女に振り回されているようにしか見えないだろう。しかし、魔獣を殺すために孤児であることをやめて、一般人であることも捨てたクレア。彼女の覚悟を知っているがゆえに、黒服たちには自分たちよりも若い少女を支援することを嫌と思ったことは無く、むしろ誇りに感じていた。
全てはクレアの意思――魔獣を1体でも多く駆逐すること――を尊重するために。だからこそ、一般人と同じ扱いをするわけにはいかない。そんな黒服たちの断固とした姿勢を見せられたクレアは、自身のお願いが通じないことを悟った。
「はぁ……。まあ、そうですね。今私が力を失うわけにもいきませんか」
「はい。日本に行っても、くれぐれも、無茶をしないようにしてください。魔力が弱まる可能性も大いにあるので」
「……頑張ってみます」
努力する。そう言ったクレアに、黒服たちは顔を上げて進言する。
「いいえ、しないでください。
「――でも、ワタシが負けなければ問題は無い。違いますか?」
質問口調でありながら、質問ではない。自信がある、というものではない。ただ事実を語っているだけでしかないと言わんばかりのクレアの言葉に、大の大人である黒服たちは気圧される。それはカリスマと呼ばれる、ある種の才能だ。
「ワタシが歩いた道の後ろには、人間しか残りません。例え可愛い小リスであっても。魔獣は1体残らずワタシが駆逐します」
難敵を排し、人々を先導するその姿を、クーリアの国民はかつてフランスを救った救国の英雄と重ねる。加えて、魔獣を殺すと黒い灰が残る。クレアが歩んだ道には多くの灰が残り、人間の足跡しか残らない。魔獣相手に常勝無敗の王女はしかし、元は戦争孤児なのだ。その姿をおとぎ話に重ね、誰が言い始めたのか、『
魔獣への復讐心を原動力として。
「さぁ、行きましょう。今はまだ
王女、聖女、英雄、灰かぶり。多くの国民の想いを背に歩き出す少女が求める『S文書』。それは日本の国立第三訓練学校にあると言う、
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