第二幕・前編……「À tout à l'heure!」
第1話 最も危険な任地
9月16日。
とある私鉄の奈良駅。その駅前にあるホテルを貸し切って本部とし、国立第三訓練学校に所属する8期、9期生による大規模討伐任務が始まった。まずは上級生と下級生による5、6人のセルに分かれる。そうして生まれた計36組のセルが各地点に分かれて、魔獣を掃討。奈良市及びその周辺を内地化する計画になっていた。
赤い絨毯が敷かれた広いホテルのロビー。学生たちが各々のセルに分かれて話し合う。モノ、
「これが、今回の奈良市街地奪還作戦の内容だけど、質問ある子?」
セル全体のリーダーであるモノが作戦の概要を伝え、質問を促す。それに手を上げて反応したのは、
「はい。うち達がどこで任務をするのか。場所を教えて?」
「うん、そうだよね。さっきセルのリーダー同士で話し合ってきたんだけど――」
手を挙げた片桐の質問に、モノは手元のタブレットを操作しながら答えていく。画面に映し出されたのは奈良市周辺の地図。そのいくつかのポイントに、赤いピンが刺されていた。
「このピンが刺さってる所が、任地。つまり、これから三校生たちが行く場所の候補だね。で、私たちはここ。東部4の地点かな」
地図を左にスライドして、現在地の東北東方面約5㎞地点にある場所に刺さったピンを、モノは細く滑らかな手で示した。地図では『
「桃ちゃんはここまで車を運転ね」
「了解。車はロータリーに停めてあるんだっけ?」
「そうそう。とりあえず7日分のお米とレトルト食品、荷物が積まれてるはずだから」
上級生主導で優たちのセルの話は進んでいく。ポニーテールを揺らして頷いた片桐に続いて、
「じゃあ次、俺な。モノと瀬戸は知ってるけど、
そう言って優とノアに自己紹介をしたのは春樹と同じで180㎝はあろうかという青年。耳を隠す長い茶色の髪に、小さな目が印象的な青年だった。春樹と同じくサッカー部に所属するため、太ももを中心にガタイはかなり良い。
「んで、俺からの質問はどこを寝床にするのか。それからどんな魔獣が確認されているかだな」
秋原の質問に、地図を拡大したモノがとある建物を示す。
「ここ。一応少し前まで人が住んでたし、電気・ガス・水道揃ってるって聞いてる。だけど、この辺りを拠点にした魔獣が現れたから避難した、だったかな?」
事前の情報を聞きながら、モノが寝床となる建物の南方250~300m地点を指す。川を挟んで広がる大きな敷地は――。
「ゴルフ場、ですか?」
「神代優クン、正解! 今は使われていないこのゴルフ場に、猿の魔獣が住み着いたらしいの」
タブレットのタブを切り替えて、モノは一枚の画像をセルのメンバーに示す。そこには赤銅色の毛色をした猿のような魔獣が芝生を
「便宜上、
「名前、そのまんまっすね」
「はいそこ、瀬戸春樹クン。文句は受け付けてません」
モノのネーミングセンスはともかく、優の中で作戦のイメージが出来ていく。インフラが整った民家を寝所としつつ、1週間ほどをかけて
「最後、ノア・ホワイトクン。何か質問は?」
「無い」
「よし! それじゃあ、桃ちゃん。早速、任地に行こうか」
自身の荷物を背に、セーラー服を揺らしてホテルのロータリーへと向かうモノ。彼女に続いて優も歩いていくと、ロータリーにはもう既に数えきれない車が止まっていた。それぞれの車のドアには、方角と番号が書かれた紙が貼られている。
ずらりと並ぶ自家用車に、思わず春樹が感想を漏らした。
「装甲車とかじゃなくて、マジで普通の乗用車なんすね」
途中、山道を行くことになる。そこには当然、魔獣も多くいるはずだ。にもかかわらず、まるでキャンプに行くような車列に、春樹は苦笑する。どの車両も身分証明のために、車体の両側部と前後に、第三校の校章が描かれていた。
「ついでに言うとどれも中古品だ。予算は、より少なくってことだろうな」
「お金さえあれば、自分で車を出す人もいるけどね。学生だし、うちには無理」
春樹の呟きに秋原、片桐がそれぞれ補足する。1年も第三校に居れば、用意されている物が最低限のものだということを良く知っていた。
「東部4は……うん、これだ」
「これ、テレビでCMしていました。家族が載る奴って……」
モノが示した白いワンボックスカーに、優が感想を漏らす。スライドタイプの乗り口で中が広々、と言うのが売りだった気がした。
「それじゃ、ここからはうちの指示に従ってね」
トランクを開けながら、片桐がモノに代わって指示を出す。特派員は基本的に団体行動をする場合、補給交渉・偵察・強襲。主に3つの役割に分かれることになる。今回は片桐が補給交渉係で、秋原が偵察係。モノと優たち下級生が主に魔獣を相手にする強襲係だった。
「まずトランクに荷物を積み込んで……」
途中で言葉を切った片桐。どうしたのかと優も車内を見てみると、トランクは既に業務用の炊飯器とお米、段ボール箱で埋め尽くされていた。段ボールの中には缶詰めやレトルト食品などの日持ちする食料と、応急手当セットを始めとするその他必要とされるだろう物資が入っている。
苦笑いを浮かべながらトランクをそっと閉めた片桐は、
「……トランクは無理そうだから、各自シートベルトをした後、膝の上に置くように。運転はうち、助手席は偵察の秋原君。9期の子たちはモノと4人で後ろに座って」
それだけを言うと、運転席に乗り込んでエンジンをかける。次いで秋原が助手席に乗り込んだ。残された優、春樹、ノア、モノが見合う。
「すみません、モノさん。オレが決めて良いっすか?」
「良いよ。……あ、でも魔獣が出た時のために私はすぐに外に出られる2列目シートが良いかな」
「了解です」
そうして、優とモノが2列目、春樹とむすっとした顔のノアが3列目のシートに乗り込む。余裕がある2列目には運転手である片桐の荷物も置かれることになった。
「それじゃ、出発するね」
安全確認ののち、優たちを乗せた車が動き出す。目指すは東部4区画、
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