第4話 ニアミス
その後、すったもんだがあって優、天、シアの3人は待ち合わせ場所の桜ノ宮駅へ。時刻は12時前になっていた。先についていた春樹と合流し、大阪駅方面のホームに立つ。
と、そこで春樹は3人の違和感に気付いた。妙によそよそしいという感じだ。3人が神代家に行ったことは知っている彼。ということはそこで何かがあったのだろう。
「……優、何かあったか?」
「天がその才能を要らない方向に使った結果だ」
「ごめん……。兄さんも、シアさんも」
「い、いえ。優さんもちゃんと男の子でした」
結局あの後、優とシアが共通の趣味である本の話をしている横で、天が優の“秘密”を見つけてしまったのだ。たった1つ。消し忘れていた履歴を見つけられてしまったのだった。
天がそれを興味本位でクリックすると、肌色面積の多い動画が多くアップされたサイトに飛んだ。幸い自動再生された動画は1つだったが、衝撃を受けるには十分だった。
「シアさん。言っておきますがあれは中学の頃の奴ですからね?」
「は、はい! もちろん分かってます! 分かってますよ? 分かってますから、大丈夫です」
いつもは必ず合わせてくれる紺色の瞳と目が合わないこと。何よりもその大人な対応が、ただただ
「ほんとごめん、兄さん。隠されると見たくなるというか……。好奇心に負けちゃった」
「……まあ、無理やりでも止めなかった俺も悪かった」
「き、貴重な経験という意味では、むしろ私は感謝するべきですね。きっと、そうです!」
「そんな不要な経験をシアさんにさせてしまって、すみません……」
「あー……なるほどな。そう言うことか。優はドンマイだ」
一連のやり取りで春樹もおおよその事態を察する。それでも、兄妹のやり取りに巻き込まれたシアこそが一番の被害者かもしれないと1人冷静に考えるのだった。
電車に揺られること5分ほど。たどり着いたそこは大阪駅。巨大なアーケードが天頂を多い、2つの高層ビルを繋ぐ日本でも有数の規模を誇る巨大な駅。その日は県外へと向かう何本かの在来線の一部が魔獣被害によって使えず、巨大な連絡橋出口には通常よりも多くの人が居た。中には特派員は何をやっているのかという愚痴を大声でこぼす者もいる。ネットには今も昔も一定層、そう言った輩はいるものだった。
「好き勝手言うよな」
命がけの任務を終えたばかりということもあって、春樹が眉間にしわを寄せる。
「良いじゃん春樹くん。もし日本のGDP上がらなかったらあいつらに『この役立たず』って言ってやろ?」
天が目には目を歯には歯をと、交戦的な笑みを浮かべて皮肉る。その横で電光掲示板を見上げる優。『魔獣への対処のため……』と赤い文字が流れるたびに、自然と気が引き締まる。いつかは自分もこういった事案に駆り出されることになる。いち早く人々の“足”を回復させる。そのためには仲間と協力して、もっと強くならなければならない。
「一緒に頑張りましょうね」
優と並んで同じものを見上げたシアが決然とした眼差しを彼に向けて言う。その視線に優は頷いて答える。そこに先ほどまでの気まずさは無かった。
騒動があったのは、4人が昼食を済ませた後の事だった。
シアを見送ろうと、環状線とは別の在来線の改札口を目指す優たち。多くの人が行き来し、時計台が有名な歩道橋を歩く彼ら。夏休みの予定についてシアと話していると、にわかに周囲がざわつき始めた。
優たちも人々の視線を追ってみる。すると血走った眼をした瘦せぎすの男が天とシアに手のひらを向けており、野球ボール大の〈魔弾〉を今まさに放とうとしていた。
この状況を例えるなら、衆目の中で刃物を取り出したようなもの。もっと言えば、今まさにその刃物を2人に振り下ろそうとしているのと同じで――
「――シアさんは下がってっ! 〈創造〉!」
男が放った
「ちっ! お前は違うな。次はお前を――」
そう言ってシアに狙いを定めた男だったが、すでに動き出していた優が伸ばされていた男の右腕を背後で固め、春樹が押し倒す。そのままうつぶせに倒れた男を2人で抑え込んだ。緊急事態にすぐさま反応できたのは、4人が日々魔法と緊張感に慣れ親しんだ特派員だからに違いないだろう。
内地での魔法使用は原則、認められていない。そうでなくても人に対して悪意ある攻撃をした場合は暴行罪や殺人未遂罪などにも問われる。
「シアさん、警察に連絡してくれ!」
「は、はい! えっと、えぇっと……! そう、110番っ」
シアがもたつく間に、遅れて反応した一般の衆人たちも通報と男の取り押さえに加わる。それから数分もしないうちにやって来た特警に男の身柄を引き渡す。同時に、被害者である天、シアに事情聴取がしたいと近くの交番に行くことになったのだった。
そうして、優たちが警察官と連れ立って交番へ向かう直前。応援要請を受けた、とある駆け出しの特殊警察官が現場に到着していた。
ぱっつん前髪に大きな瞳、垂れた目元。サラサラのボブカットを揺らした小柄な彼女は、大きく押し上げられた制服の胸ポケットから無線機に答え、現着を伝える。そしてその足で、騒動があった大阪駅の歩道橋へと赴いた。
「お、応援に来た
「お疲れ様。実習中だからって緊張しなくて大丈夫だから。それに事件自体は居合わせた高校生が解決したらしい」
「え、高校生がですか?!」
自分と同じくらいの年の少年少女が手早く事件に対処したことに、黒い瞳を大きくさせる。その初々しい反応に頬を緩ませた先輩警察官の男性。
「はい。ほら、あそこ。被害者だから一応、事情聴取するらしいです」
先輩が指さす方向を見ると、ちょうど若者4人が交番に近い階段を下りようとしているところだった。その中の1人。後ろ姿でもわかるほど非常に特徴的な髪色をした小柄な少女が、春野に中学の頃の友人を想起させる。
「あの……被害者の名前とかは分かりますか?」
「すみません、現場保全のために私も後から駆け付けたもので、名前までは」
それでもそう何人も、あんな髪色をした人物はいないだろう。記憶にあるその時よりも少しだけ明るい髪色が増えたような気もするが――。
「春野さんはそのまま、犯人の護送に付き添ってください。パトカーはあれです」
「あ、はい! 暑いのでお気を付けください」
「ありがとうございます。春野さんも頑張ってください」
炎天下。玉の汗をかきながら、特殊警察官見習いの少女は奔走していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます