第14話 問いかけ
一昨日、魔獣との戦闘で倒れていた女性から話を聞いた
彼は、追試を終え、特派員仮免許を取得したシアと
「先々月。俺とシアさんが初めて会った時に襲ってきた魔獣、いましたよね?」
「はい。確かイノシシと、イヌの魔獣でした」
優に聞かれ、記憶を探るシア。
「あの時、第三校の近くにある、ジョンと
「はい。それも聞きました、けど……?」
ジョンと
ジョンが3人の弟たちに珍しい天人――シアを会わせようとしたことが、全ての始まりだった。
余談だが、天が“魔法の申し子”と呼ばれるようになった要因も彼らだったりする。
ジョンと下野を食べようとしていた魔獣をいともたやすく討伐してみせたのが、天だった。
優から説明を預かる形で、今度は
「助けた女の人、確か
60歳を超える
「最近、ご両親と連絡が取れなくなったから、朝早くに車で様子を見に行った。そしたら、そこらへんにはもう人が居なくってた。実家に停めてあるはずの車も無いし、家に人の気配もない」
どこかに避難したのだろうか。ひとまず1人で長居するような場所でもない。
「そう思って、車に戻ろうとしたら魔獣と魔人に襲われたらしいよ?」
もともと長嶋も外地に住んでいる人物。
魔獣との戦闘にもある程度慣れており、魔法の扱いも十分だった。
「でも、たくさんの魔獣と魔人に身一つ。多勢に無勢。第三校は有名だし、近くにあることを知ってた長嶋さんは、助けを呼ぼうとしたみたい」
彼女が第三校の近くに来ていたのは決して偶然では無かったと、優は長嶋の話を聞いて初めて知った。
「そこに兄さんが通りがかって、助けた、と」
「……いや、天と、先生たち、モノ先輩がいたから助かったんだ。俺は何も」
謙遜のようにも聞こえる。
しかし、そう言った優の顔に
事情を聴こうと思ったが、
「で、ここからが提案なんだが」
優がそう言ったことで止めておく。
気のせいかも知れず、わざわざ話の腰を折るほどでもないという判断だった。
「長嶋さん、実家周辺の調査を第三校に依頼するつもりらしいんだ」
様々な場所で魔獣の脅威から国を守っている特派員。
その実績などは国が運営するサイトのホームページなどで確認することが出来るようになっている。
活躍によってA~E と仮の6段階にランク分けされており、A級特派員にもなると国内にいる特派員総数の1%ほどしかいない。彼らは名前が公表され、給与や日常生活に優遇措置がされていた。
そうして特派員が受け持つ任務には主に国からのものと個人からのものがある。
前者の方が、報酬が多く実績の扱いも重い。同じ外地に行って危険を冒すなら、貰えるものは多い方が良い。そのため、上昇志向が強い人でなくても、国からの任務が好まれる傾向にある。
「優、わかってるのか? ジョンも言っていたことだ。その長嶋さんのご両親が住んでいたあたりは魔獣のせいで壊滅している」
「そ。つまり調査って言うよりは、遺品回収とか遺体の確認とかになるね」
天も場の雰囲気が暗くなり過ぎないようにと軽く言うが、その内容は凄惨なもの。
連絡が取れない。行方が分からない。
この世の中、大抵そう言った人々は死んでいる。しかも、厄介なことに魔獣や動物が遺体を食べてしまうために、その生死がわかりづらいのだ。
それを逆手にとった大規模な人さらい・人身売買の噂もここ数年、増えてきている。
「それでも、俺は。生きているなら、生きているって。死んでしまっているなら、弔いをしてあげたい」
優としては、“待ち人”の生死をはっきりさせてあげたい。
たとえそれが悲報になるとしても、絶対に帰って来ない人を待ち続けるのも酷だと思うし、人さらいなどにあっているなら、その真実を明るみに出したいと思っていた。
「――私も、優さんに賛成です。ジョンさんたちの話では、場所は学校から近いはずです。もし、何かあっても、助けを呼びやすいはずです」
優に賛同するシア。
「まあ、大人の長嶋さんでも逃げきれなかったらしいから、オレと優は危ないだろうけどな」
でも、初めての任務ならちょうどいいのかも。そう付け加えて春樹もおおむね賛同の意を示す。
その流れを冷静に見つめるのが天。
「春樹くんもシアさんも。忘れてるみたいだから」
そう言って、最大の懸念事項を話す。
「そこには、魔獣を手玉にとる魔人がいるかもしれないんだよ? 実際、長嶋さんはたくさんの魔獣に襲われて、最後に魔人に食べられてる。それでも、行くの?」
彼と直接会っていないシアや春樹は仕方ない。
が、兄は違う。仲間を危険にさらす覚悟があるのか。命に責任を持てるのか。
天は全員に、兄に目を向ける。
そうして目線で問われた優は――。
「それは……」
即答できなかった。
演習の時。同級生の死を前に感じた、覚悟の甘さ。特派員はみんな死を覚悟していると自分で言いながら、優自身が、その事実をなかなか乗り越えられなかった。
加えて、理想の特派員像を曖昧にしたままの今。
(俺は一体、どうなりたい? どんな特派員に……)
「優」
悩む彼に声をかけたのは、春樹だった。
「オレは、お前に、命を預けた覚えはない」
……………
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