第3話
今まで繰り返してきた世界との違う点。
1番の違いは、アキラと楽しそうに会話している彼女の存在だろう。
アキラと同じ世界から来た少女、ミズキ。
どの世界でも、アキラや僕とは知り合いになることはなかった女の子。
三年、そう、三年早く時間が進み始めている影響だろうと思われた。
彼女はアキラと、とても話が合うらしい。
元の世界で語り継がれてきた物語の話題で、盛り上がっている。
アキラが創作物好きであることは知っていた。
でも、こんなに饒舌に楽しそうに語る姿は、今まで一度も見たことがなかった。
聞き慣れない単語が、背後から聞こえてくる。
コジキ、ニホンショキ、フドキ、カゲロウニッキ、サラシナニッキ、マクラノソウシ、タケトリモノガタリ、ウゲツモノガタリ、ゲンジモノガタリ、ヘイケモノガタリ、コンジャクモノガタリ……。
多分、作品のタイトルなのだろうと推察できた。
他のタイトルもくちにしていたが種類が多すぎて、覚えきれない。
というよりも、今までの世界でアキラとそんな会話をしたことはほとんど無かった。
グリムドーワというのも、そんな作品のひとつらしい。
「更級日記も聞いたことない。どんな内容なの?」
ミズキが聞くと、アキラが説明した。
「千年前のオタク日記。
俺らの大先輩の日記だよ。
物語が読みた過ぎて、自分で仏像彫って、その仏像に都会に行かせてください、そして物語を読ませてくださいって、頭を地面に擦り付けて拝んだ女の子の日記。
この前ミルさんにも聞かれて、もう少し詳しい内容話したら、独身女には身につまされる内容だな、って言われた」
……アクティブな人が千年前にもいた、ということかな。
「あ~、人間の本質ってそうそう変わらないんだねぇ」
共感できる部分があったのか、ミズキがしみじみ口にした。
二人はとても楽しそうに会話を繰り広げる。
ときに脱線しつつも、そしてマニアックな内容でもあるけれど、それは、年頃の少年少女の仲睦まじい空気だった。
僕は、注文したコーヒーに口をつけ、2人の会話をただ聞いている。
やがて、
「それじゃ、次の話は【青髭】にしよう!」
……それにするんだ。
奥さんを殺害し続けた金持ちの話、だったっけ。
「できればせっかく異世界にいるんだし、お城とか取材したいなぁ。
御屋敷より、お城で起きる惨劇の方がインパクトありそうだし」
「取材、するんだ」
ミズキの言葉に、アキラが意外そうに返す。
「うん。あちこち行くの楽しいよ。
休み合わせて、君も一緒に行こうよ!」
「え」
「ダメ?」
「別にいいけど。
でも、ミルさんに聞いてみないと」
「あー、トラブルで行動制限がかかってるんだっけ。
君も大変だねぇ」
「まぁ、行けるかどうかはあとで確認するとして。
どこの城に行くかとかは決まってるの?
お城ってだけなら魔王城でもいいじゃん」
「ふっふっふ」
アキラの言葉をうけて、ミズキはごそごそと楽しそうになにかを取り出す気配がした。
「ここ!
近くに日帰り温泉があって、さらに【真祖】の吸血鬼が棲むお城が見えるんだって!
お城や近辺はその真祖の人、ジルって人の所有だから、近づけないし入れないけど。
遠くから見る分にはおっけーらしいよ」
ぶっ!!
ゲホゲホ!!
思わず口にしたコーヒーで盛大に噎せてしまった。
「だ、大丈夫ですか??」
アキラが何事だ、とこちらにやってきた。
「大丈夫、平気。
穴違いしただけ」
ミズキが店員へ、拭くものを借りようとしている。
いや、そんなことより。
(あの人、起きてたんだ)
ジル・ブランヴィリエ。
他の世界では、アキラの眷属となった吸血鬼だ。
どの世界でも、彼は数百年単位の眠りについていて、目覚めるのはそれこそ三年後だったはずだ。
そんなことを言ったら、エドの暗躍だって三年早い。
すでに何もかもが違っているのだ。
何が起きても不思議では無い。
……とりあえず今の家、部屋数だけはあるから、うん、あの人が来ても大丈夫のはず。
でも、あの人お腹空かせると暴走するからなぁ。
僕はちらりと、こちらを見ているアキラへ視線をやった。
着いて行くしかない、か。
なにしろ、今までの世界だと、ジルと知り合った時のトラブルが、アキラ関連で最初の大きなトラブルだったのだから。
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