第21話

「ついでだ、私の頼みも聞いてくれると嬉しい」


 そう、シェリルは切り出した。


「頼み??」


「女神からアキラ君の監視役を頼まれただろう??」


「…………」


「それが無くても、お前はあの子をストーキングするからな。

 どの世界線でも、それは変わらなかった。

 いいや、お前だけじゃない。

 なにも変わっちゃいない。

 変わったのは、アキラ君がこの世界に来たタイミングだ」


「さっきから何を言って」


「あの子は、本来なら二十歳になる前、十九歳の時にここに来るはずだった。

 この、世界にだ」


 エドにお構いなく、シェリルは続けた。


「お前と出会うのはもっと後だった。

 それなのに、この世界線では何もかもが違っている。

 女神ですら、把握出来ていないことが起こっている。

 だから、女神はお前を監視役に選んだ。

 女神も言っていただろう?

 お前はアキラ君を愛してしまう。

 どの世界線でも、それは変わらない」


 そこで、一度シェリルはため息を吐き出す。


「【愛して愛して愛して愛して。愛愛愛愛愛愛】

 お前は、この言葉を聞いたんだろう?

 アキラ君が壊れる至った理由であり。

 欲しても決して手に入れることのない、それ。

 そして、狂っている原因でもある、【それ】を、他ならないアキラ君の中に見た、そして聞いたはずだ」


 シェリルに言われ、思い出す。

 エドが初めて、あの子供、アキラと出会った時に見た彼の精神の中は、まさにその言葉で埋めつくされていた。


 愛が欲しい。

 愛が欲しい。

 愛して。

 愛して。

 愛愛愛愛愛愛愛。


 そんな言葉で埋め尽くされた、壊れた世界がアキラの中にあった。

 だから、欲しいと思った。

 だから、食いたいと思った。

 しかし、それを邪魔されたのだ。

 ウィルに邪魔されたのだ。


「それをお前が知るタイミングだって、そもそも違うんだ。

 何もかもが違うんだ。

 だからこそ、知りたい。

 この世界で、今、なにが起きているのか?

 もしくは、起きようとしているのか?


 私も知りたいんだ。

 私もそれが知りたいんだ。


 なにしろ傍観しかしてこなかったはずの女神が、動いている異常事態だ。

 本来起こるべきことが起こらず、新しい流れになっている。


 一見すると、それはとても良いことなのかもしれない。

 そして、なにも起きていないように見える。

 けれど、これは異常なことだ。

 お前に言ったところで理解はされないだろうけれどな」


 シェリルは真っ直ぐ、エドを見た。

 そして、


「おそらくだが、このシナリオを書いたやつがいるはずだ」


「だから、あの子供を監視しろと?」


「お前はアキラ君のことが好きだろう?

 そして、この世界線でもお前は彼を愛してしまった。

 その推し活ストーカーのついでに、何が彼に起きているのか、また起きたのか、私にも報告してもらう。

 それだけだ」


 言い終わると、シェリルはエドの瞳を覗き込んだ。


「この世界に異物が紛れ込んでいる。

 だからこそ、この瞳をエドに埋め込んだんだろう?

 その異物を見つけ出すために」


 シェリルは、瞳越しにエドではない存在へとそう問うた。

 だが、なんの反応も返ってこなかった。

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