第12話
まるでホテルのような個室に、基本軟禁状態だ。
やることと言えば、ときおりやってくる白衣を着た研究員の人に連れられて、身体検査をしたり、聞き取りをされたり、カウンセリングを受けたりだった。
元の世界に居た頃と比べれば、とても穏やかに、そしてゆっくりと過ごせている。
「おはよう、少年。
おや、また本を読んでいるのか」
今日は身体検査もなければ、カウンセリングもない。
そのため、俺は他の迷子たちのために用意されていた本を読んでいた。
それは、元の世界にある著作物だった。
古今東西、様々な小説に漫画が置いてあった。絵本だってあった。
「えぇ、まさか元の世界の漫画があるとは思っていませんでした。
そういえば、他にも迷子の人がいたんですね」
俺は読んでいた本を閉じて、最近この研究施設で知り合った女の子の話題をだした。
他に話題が無かったのと、暗に精神的にも元気になったので解放しても大丈夫、という意味を込めたのだが、そうは簡単に行く話ではなかった。
ミルさんは少し申し訳なさそうな顔をして、俺の話を聞いている。
「その子と知り合って、色々話をしてたんですけど。
紙芝居の練習につきあったりしました。
語りがすごく上手でしたよ」
「あぁ、あの子か。渡航者として申請が出ている」
「渡航者??」
「文字通り、あちこち世界を渡り歩く存在ということだ。
何らかの理由で元の世界に帰れない者が、そうして安住の地を探すんだ」
ミルさんの言葉に、同じ迷子――ミズキのことを思い浮かべる。
つまり、進路が決まっている、ということだ。
自分とそう歳が変わらないのに、すごいな、と思う。
ミルさんによると、彼女の申請はまもなく降りるらしい。
そういえば、ここを出たら紙芝居をしながら稼ぐとかなんとか言っていた気がする。
古い文学作品をベースにした紙芝居を自作しているとかで、ちょっとだけそれを作る手伝いもしたが、あれは楽しかった。
まぁ、今のところ俺ががっつり関わったのは【蜘蛛の糸】と【人魚姫】、この二つをベースにした話だったけど。
アレで本当に良かったんだろうか、と思わなくもない。
もう一つ、手を貸してくれと言われたので三つ目の紙芝居を製作中ではある。
これが中々楽しかったりするので、いい気分転換になっている。
「へぇ、いいですね。安住の地かぁ」
やる事が決まっていて、それに邁進できるのはとても羨ましいと思う。
俺には出来ないことだ。
「ところで、君の話に出てくる【紙芝居】とはなんだ?」
ミルさんが雑談のついでとばかりにそう質問してきた。
ちょうどいい。
俺は、ベッドの下に片付けていた、製作途中の紙芝居を出して見せた。
「これです。作り途中ですけどね」
絵は出来ている。
ミズキが先に完成させていたのだ。
「絵本とはまた違うんだな」
「そうですね、ちょっと違います。
でも見せ方が違うだけで内容は、絵本と同じだったりするんです。
これは昔話をベースにしたものになります。パロディですね」
「どんな話なんだい?」
「……雨月物語、という本に収録されている【青頭巾】をベースにしています。
怪談、怖い話になりますね。
でも、俺はこの話、好きなんですよ」
青頭巾のストーリーはこうだ。
とある寺の僧侶が、愛していた稚児に先立たれ、心を乱して鬼となってしまう。
鬼となった僧侶は、埋葬できずにいた稚児の死体をとうとう食べてしまう。
というか、その時の描写が
その僧侶を、旅の
「死して尚、食べてもらえるほど愛される。
とてもロマンチックだと思うんですよねぇ」
まぁ、肉は腐っていたと思われるから、美味しかったのかは疑問の余地があるけど。
ふと見ると、ミルさんがドン引きしているのがわかったので、それ以上は言わなかった。
実は、人魚姫をベースにした話にこのカニバリズム要素を入れたりしてあるが、うん、表現の自由とか年齢制限に引っかからないことだけ祈ろう。
「ところで、用事があったから来たんじゃないですか?」
俺は、微妙になった空気を変えるべくミルさんに訊ねた。
「あぁ、そうだった。
少年にとっては残念なお知らせと、個人的なお願いにきた」
「はい?」
「どうも少年の、こちらでの滞在期間が延びそうなんだ。
それで、どうだろう?
紙芝居制作もいいが、少し私の知り合いのところでアルバイトをしてみないか?」
それは、願ってもない打診だった。
だから、俺はすぐに快諾した。
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