第9話
この体の
痛い、痛いと叫んでいる。
泣いて、喚いて、――を欲しがって、絶望している。
その感情を、オレは眠気覚ましに喰らう。
さて、この懐かしい故郷に戻り、時間にして数時間、といったところか?
記憶を読む。
この憎らしくも愛らしい、甥っ子の記憶を読む。
ふむ、一晩明けているのか。
まずは、
「オレに触れるな」
オレは腕を振るう、こと更にゆっくりと。
しかし、言葉を投げただけで充分だったようだ。
灰色髪の眷族は、人間のように笑みで顔を歪めると飛び退いて、オレを見てくる。
「人間の真似事が上手くなったな、我が眷属よ」
「これはこれは、お初にお目にかかれてうれしく思います。お父様」
わざとらしい、芝居がかったセリフが投げられる。
「いえ、世代的にはおじい様、と言った方が良いでしょうか?」
「はっ、孫に馬鹿にされるほど老いてはいないがな?」
そこで、オレは気づく。
この灰色髪も、本来の体の主の漏れ出た感情を喰らっていることに気づく。
なるほど、嗜好はどういうわけかオレに似ているのか。
しかし、つまみ食いは頂けない。
オレは、切り裂かれた左腕の傷を見る。
新しく付けられた傷を見る。
あははは、新天地でもこんな目に逢うなんて。
甥っ子は本当に不幸だ。
父上、そして、あのクソ生意気な弟に望まれて人生を歩まされて。
あいつらの余計なお節介さえ無ければ、
でも、オレは愉快で愉快でたまらない。
気分がいい。
とても気分がいい。
図らずして、この憎らしくも愛しい甥っ子に――が欲しいと叫ばすことが出来て。
そう、とても気分がいい。
あははは、
「とりあえず、一緒に来て欲しいんですがね?」
灰色髪が、うっとりと今は中に引っ込んだ
なるほど、オレの好みを誰よりも色濃く受け継いだのか。
これはこれで運命だろうか?
「寝言は寝てから言うもんだぞ? 糞孫」
「深夜徘徊は、同居人の迷惑になるって知らないんですか?
耄碌爺」
「そんなに滅びたいか? 小童」
それなりに本気であることは、この灰色髪の孫もわかっているだろうに引く気配が無い。
いや、違うな。
あの顔を見るに、完全にこの甥っ子の感情、その味の虜になった上に堕ちたな。
さてさて、悪いがこの灰色髪は甥っ子を任すには力不足だな。
ある程度削がれてしまったとはいえ、眷族を滅ぼす程度の力は残っている。
それこそ、指を打ち鳴らすだけで充分だ。
オレは灰色髪を消し去ろうとした時、まるで恋に恋する乙女のようにうっとりとした口調で答えが返ってきた。
「そうですねぇ。
うん、滅ぼされるなら、耄碌爺なんかよりも、貴方の器になってるその人間に、俺なりの愛を与えてから滅びたいですね。
初めて運命ってものを知りましたから。俺の初めてを与えてグチャグチャにしてやりたいって思ったのは、我ながら衝撃だったもので」
同時に、近くで少女の声が届いた。
「少年!! 無事か!!??」
現れたのは、ダークエルフの女だった。
甥っ子の記憶にもあった女だ。
果たしてどちらの声に反応したのか、それはオレにもわからなかった。
ただ、そのどちらかに確かにこの甥っ子は反応したのだ。
さらに、そこへ灰色髪と行動を共にしているらしい、もう一人の眷族の黒髪が現れる。
おやおや、これは。
甥っ子、目を覚まし始めてるな。
これはこれで愉快だ。
「おい、女」
オレは、ダークエルフの女へ声を掛けた。
するとそれだけで、顔色を変えた。
「きみ、いや、お前は!!」
なるほど、こいつ
これは意外だ。
あの時代からの生き残りとは。
しかし、今はそんなことどうでもいい。
この際だ、引っ掻き回してやる。
「ちょっと下がってろ」
オレは、甥っ子の体を借りたまま、少しだけはしゃいだ。
指を打ち鳴らして、若い眷族の手足を吹き飛ばしてやった。
黒髪が驚愕とともに、初めて恐怖を覚える。
その感情を喰らいつつ灰色髪を痛めつけてみる。
が、想像以上の変態だった。
黒髪が分が悪いと判断して、灰色髪を連れて逃げ帰る。
それを見送ってから、オレは甥っ子へ体の主導権を返した。
遠くなる意識の向こうで、体が倒れるのがわかった。
さてさて、捨てられるか、それとも今までと同じか。
どうなることやら。
どう運んだとしても、引っ掻き回すことには変わらないけどな。
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