第6話

 

 SFの作品に出てくる、うっすい画面表示だ、これ。

 映し出されているのは、外見は二十歳前後に見える金髪碧眼のエルフの女性だ。

 名前はレイチェルというらしい。


 『とにかく無事でなによりでした、大おば、じゃなかった。

 お姉さま』


 挨拶と俺の紹介もそこそこに、ミルさんは現状の説明をレイチェルさんに求める。

 それでわかったことは、各大陸にて召喚されたシナリオ上の勇者達がやはり襲撃を受け、次々に殺されているらしいということ。

 受付さんとの会話の補足説明になるが、役割を与えられた人間はゲームと同じで何度でも死に戻りができるらしい。

 ……神族がそういう設定にしてるのだとか。

 今でこそ召喚された人間にのみこれを適用しているが、役割さえ与えればこちら側の世界の人間にもこの設定を適用できるらしい。

 ディストピア、地獄は続くよ、どこまでも。

 天国ってどこにあるんだろ。

 別に地獄にもだけど、天国にも行きたくないけど。

 あと、もしかして神族って……。

 んー、まぁ、いっか。

 余計なことは口にしないようにしよう。


 映し出されたレイチェルさんには、音声にもそして動画にも時折ノイズが入る。

 それでも、ミルさんにとっては知りたいことを知るには十分だったようだ。


「わかった。とりあえずこちらでも調査は続行しよう」


 『あ、そうだ。

 もう一つ、報告がありました。

 今回の件、水面下で【捜査局】が動いているようです』


「捜査局が? なんでまた??」


 レイチェルさんは、ミルさんの疑問にはすぐに答えなかった。

 なぜか俺へ視線を寄こしてくる。


「彼が、どうかしたのか?」


 『……特に口止めされてるわけじゃないので、言ってしまうと。

 殺されてるのは、役者だけじゃないんです。

 こちらが未確認だった、彼のような迷子の転移者も昨晩から襲われ続けてるようです。

 例外なく、遺体で発見されてます』


「……レイ、レイチェル。

 それは、捜査局の誰からの情報だ??」


 『それは』


「言い淀んだ、ということは、あいつか」


 すっかり蚊帳の外なので、俺はボケェっと話が終わるのを待つ。

 しかし、そっかぁ。

 俺って本当、運が無いんだなぁ。

 ミルさんには申し訳ないけど、ついそう思ってしまう。


 『はい。お姉さまの思う人物で間違いないと思います』


「捜査局の悪魔。イルリス・ジルフィードか。

 ということは、捜査局側も転移者の保護と今回の調査に乗り出だしてるってことか」


 『えぇ、ただあの感じからして調査というよりも、本来の捜査をしているのだと思います』


「何かを捜している??」


 話が全く見えない。

 でも、なにか深刻そうではある。

 だけど、基本迷子で部外者の俺が口を挟めるわけもない。


 『これは、私の大きな独り言です。

 昨晩、観測された転移反応はとても大きなものでした。

 大きすぎて、どこにその転移者が転移したのかわからない程でした。

 その反応と前後して、普通の転移魔法と通信魔法が使用できなくなり、つい先ほど通信魔法は不安定ながら復活しました。

 でも、いまだに転移魔法の方は使えません。

 それだけだったなら、まだ良かった。でも』


「でも?」


 『この二つの魔法が使えなくなった前後、大きな転移反応があった前後。

 観測器が妙な反応を示したんです。

 転移魔法は異世界からの物も含めて使えなくなったはずなのに、複数の【本来の魔族】の反応を感知しました。

 役所と魔王軍の上層部は、この反応によってだいぶ混乱してます』


 ???

 本来の魔族?


「ほう。それはまた」


 ミルさんの声が、少し愉快そうなものになる。


「いったい今更、捨てた世界になんの用があるんだか。

 でも、なるほど。役者の死の答えはそれだな。

 上位存在である本来の魔族なら、今の神族の魔法を書き換えることが出来る。

 なるほどなるほど。そうなってくると問題は、捜査局の捜しものが何なのかということと、なんで本来の魔族が、役者を手にかけているのか、ということか?」


 難しい話になってきたぞ。

 あと、眠くなってきた。

 俺は欠伸を噛み殺す。

 睡魔なんていつ振りだっけ?

 そうこうしているうちに、通信は終わった。


 ミルさんが俺に振り向きながら、声を掛けてくる。

 それだけで、睡魔は消えてしまう。


「少年、聞いての通りだ。

 君も現状狙われる可能性がある。

 中央大陸に戻れない以上、しばらく私と行動を共にすることになる。いいね?」


「あ、はい。わかりました」



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