第5話


 看板には、情報屋と書かれていた。

 その名の通り様々な情報を取り扱っているのだろう。

 入ってすぐ、受付があった。

 木のカウンターの向こう側に、中年の男性が椅子に座って声を掛けてくる。


 「いらっしゃい」


 「お疲れ様」


 ミルさんはそれに返しつつ、何やらカードのような物を受付さんに提示する。

 微かに、受付さんの表情が揺れたように見えた。

 動揺、だろうか。

 いや、なんかホッとしているし、安堵か??

 と、受付さんが少し離れた場所に立っていた俺を見る。

 その視線にミルさんが気づいて説明してくれた。


 「彼か、あぁ、そうだ。いつもの迷子だよ。

 昨夜保護したんだ。

 この件に関係あるかは、まだわからないがね。

 たまたまなのか、必然なのか。

 それでもあちらの世界からの客人であることには変わりない」


 「連れてきた、ということは、説明は?」


 「したさ。いつも通りに。

 彼から回収したものがいくつかあるから、これもいつも通り確認をお願いするよ」


 ミルさんはそういうと、俺が彼女に預けたロープと携帯電話をカウンターに出現させる。

 それを、受付さんは回収する。

 察するに、ここは中央大陸の魔族さん達が利用する施設ってことなんだろうな。

 説明がないから想像だけど。


 「了解。これは送還時に返却するから」


 受付さんは、今度は俺に向かって声を掛けてくる。

 

 「この書類にサインを頼む。

 内容は、読み上げようか?」


 「あ、はい。サインですね。

 読み上げは大丈夫です。

 なんか読めるようになってるみたいなんで」


 表の看板も読めたことをついでに言うと、二人は何故か顔を見合わせた。


 「ふむ、それは重畳だ」


 ミルさんが物凄く満足そうに頷いた。


 「まぁ、少しはいいことが無いと気が滅入るもんな」


 受付さんはしかし、どこか浮かない顔をしている。

 

 「というと?」


 俺は書類を受け取り、カウンターにて中身を確認してサインをする。

 書類には、俺の持ち物であることの確認と、万が一にも紛失などがあった場合は俺と、えーと魔族側、でいいんだろうか?

 【役所】表記になってるけど。

 その【役所】が弁償してくれることなどが記載されていた。

 ほんと、ケアがしっかりしてるな。ホワイトだ。

 そんな俺の横で、受付さんとミルさんの会話が交わされる。

 

 「さっき、ようやく通信魔法が復活したんだ」


 「やっとか」


 「だが、まだ何かが邪魔してるらしくて完全じゃない。

 転移魔法に至ってはいまだに使えないときた。

 それに」


 「それに?」


 「この大陸で召喚された役者一行が先日遺体で発見された。

 惨殺、って言葉がぴったりな殺され方だったらしい」


 あの、なんか、怖い会話が交わされてるんですけど。

 詳しく遺体の状態について話さないのは、俺に配慮してくれてるのかな。

 

 「遺体で?」


 「そう、それも何かと戦った形跡があるが。

 通信魔法が復活してすぐに、この大陸に派遣されてる魔王軍に問い合わせたら、知らないときた」


 「シナリオの外側で、しかも復活しない殺され方をした、ということか?」


 「そういうことだ」


 これ、聞いてていいのかなぁ。

 ん、いや、待てよ?

 そういやミルさん、今は非常事態とかなんとかで、いや緊急事態だったかな?

 なんか俺にも手伝ってもらうかもとか言ってたよーな??

 え、これ、まさか聞かせてる?

 俺にも聞かせてる??

 

 「ありえるのか?」


 ミルさんが信じられないとでも言いたげに、受付さんに訊ねる。


 「起こることしか起きていないし。

 起こることしか起きないからな」


 受付さんは、そう返しただけだった。

 何その返し、なぞなぞ??


 「……本部はなんて言ってるんだ?」


 「原因と現状の調査に力を入れろ、だとさ」


 「ま、妥当だな。

 神族の方は? なにか言ってきてるか?」


 「他の大陸はどうかわからんが、この東大陸で展開中のシナリオは継続しつつ、調査しろ、だとさ」


 「言うのは容易いな」


 そこで二人の会話が途切れた。

 頃合いかなと思って、俺は受付さんへ書類を渡す。

 受付さんは、俺から書類を受け取りつつ聞いてきた。


 「そういえばアキラさん、昨夜保護されたってことだが。

あんたがこちら側に来たのは、そっちの時間で何時ごろだったか覚えてるかい?」


「え、あ、いえ。すみません。

気づいたら夜で、森のなかにいたので。

その正確な時間までは」


 携帯を確認した時にちゃんと見ておけば良かったな。

 まぁ、今更だけど。


 「そうか。

 いや、すまんね。一応聞くように言われてるからさ」


 受付さんの言葉に、またミルさんが反応する。


 「ほう、それはそれは」


 「まぁ、詳しいことは本部に問い合わせてくれ。

 ここにはまだ降りてきてないが、もしかしたら、他の大陸からも報告が上がってきてるかもしれないしな。

 ほら、応接間の鍵だ」


 「了解」


 ミルさんが古びた、昔ながらの鍵を受け取ると、俺の腕を引っ張る。


 「よし、それじゃ行くぞ少年。こっちだ」


そうして、俺はこの建物内にある応接間へと連れていかれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る