さむうぇあおばーざれいんぼう

村野一太

第1話

 その時だった。

 下を見て歩いていて今まで気づかなかったが、西の空に虹がかかっていた。五郎はポケットの中で握りしめているバンクカードをさらに強く握りしめた。

 虹の向こう側はどうなってんだろう……、五郎はふとそんなことを考えたのだった。

 向こう側は楽園なのではないか、女の子にモテるし、高級車にも乗れる、嫌な仕事もやらなくてもいい。うまいものをいくらでも喰える。太ったらジムに行けばいいんだ。虹の向こう側には、そんな楽園が僕を待っているのではないだろうか……

 いや、ダメだ。アッチに行ってはダメだ。貧乏でもいい、誠実にコツコツと地道に生きていくんだ。目を見てじかに「ありがとう」と言ってもらえるような生き方を僕は選んだんだ。そのためにこの地に移住してきたんだ。

 しかし……

 虹は根元から存在を消そうとしていた。

「ふふふ、まあ、いいわ、あなたはそうやってむさ苦しく生きていきなさい、ふふふ」

 と五郎にささやきながら、ゆっくりと、しかし、急速に虹は存在を消そうとしていた。

「こんなチャンス一度しかないのよ、うふふ、しかも、みんなに与えられたチャンスではないのよ。アナタは選ばれたのよ」

 五郎は、薄汚れた役場の壁と消えゆく虹を見比べた。

 バンクカードを握る手には大量の汗をかいていた。

「ドーンッ」

 

 五郎は役場の前にあるベンチに座り煙草に火を点けた。

 スマホが鳴った。

 迷惑メールだった。

『簡単にお金を増やす方法』

 という件名だった。

 五郎はそのメールを指で強く押した。その指は震えていた。

 ポケットには2500万円入った、薄っぺらいバンクカードが握られているのだった。

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さむうぇあおばーざれいんぼう 村野一太 @muranoichita

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