刹那と魔法編

25話-学園主催のパーティー...なんてあったっけ?

1


 朝。


 魔物に襲われ、幼女に助けられた日を超えた朝である。


 「...あ~...」


 眠気眼をこすり上体を起こす。昨日の出来事を忘れさせるような良い天気に恵まれ、新たな1日を楽しみたいところだがそうもいかない。

結局あの騒動は被害者がそこそこ出ていたみたいで、大事になっていた。


 「んー...」


 なんでも解決したのは刹那という事になってるらしい。疲れと緊張を蓄積した体に安堵の気持ちが止めを刺した私の体は、睡眠という形を持って意識を無くしていたらしい。


あの幼女――瑠璃ではなく、なぜ刹那が魔物を討伐した事になっているのか謎だ。

だが、


 「まぁ解決したならいっか」


寝起きの回らない脳みそで考え事は面倒なのでやめた。


軽いブラッシングをしている所に櫻巴が部屋に入ってくる。


 「おはよう彼方。体調は大丈夫?」


 「おはよう。大丈夫だよ~」


 「それはよかった。どう?魔物は強かったかい?」


 「強すぎ!あんなの相手にするのは当分嫌!」


 「ははは!まぁ昨日のは結構強い部類だからそうそう目にしないよ。それで、どうだい?瑠璃の方は元気にしてた?」


 「あぁーうん、一瞬で魔物倒してたね」


ん?瑠璃の事知ってる?


 「お母さん瑠璃の事知ってるの?」


 「知ってるし、瑠璃と刹那を学園に呼んだのは私だよ」


 「えー...そうなんだ」


通りで魔法が全く使えない刹那が入学出来た訳だ。

というか自分の身分フル活用してる...。


 「ほら彼方、制服。着替えてご飯にするよ」


 「はーい」


 身分の差を無くし、平等な存在へとしてくれる服。

それが制服。

着てみるとちょっとサイズが大きい。

将来体が大きくなることを見越してだろう。


制服は赤をメインカラーとして、アクセントに黄色が使われている。

左腕には水色のラインが入っている。

なんかこのラインが入ってるデザインが歪を生み出してる。

この水色、なんというかサイバー感があるというか、SFチックな光り方だ。


まるでモニターが埋め込まれている感じ。


 「なんで変に現代技術っぽいのあるのよ...」


 雑に混ざられた現代技術に微妙な萎えを感じながら朝食に向かうのだった。


2

 教室に入り自分の席に座る。

窓際の一番後ろ、私の特等席であり1番ストレスが無い席だ。

そして


「おはよう、彼方」


「おは、よう 刹那...さん?」


「? 刹那でいいよ」


「あぁ、うん。おはよう、刹那」


なけなしの勇気を一生分使って、喋る相手が出来たのだ!!

そのお相手こそが虚刹那!

まぁまだ話すのに慣れないけど...。


だけど、私の学園生活はこれでイージーモードになったかもしれない。

少なくとも微妙に気にしていた孤独とはおさらばだ!


私の隣に刹那が座る。


「ん、それで前にも言ったかもしれないけど魔法は使えない。だから彼方に頼ってもいいかな。ここだけの話、裕福な人とはちょっと相性がよくないんだ」


入学式から浮いてたからなぁ、私もだけど。


「勿論!どんどん頼って、ね!」


「助かるよ。代わりに困ったことがあったら何でも力を貸すよ。そうだ、昨日良いライラのお店を見つけたんだ。一緒に行こうよ」


「ライラ?って何?」


「アイスクリームって、あーあれだよ。冷たくて甘いお菓子かな」


「え、あれ?アイスクリーム?あぁアイスね、アイス...うん。いいね、いこっか!」


なんだろう、翻訳機能が強くなって便利になってきている感じがする。

前は異世界の普通名詞が日本で聞きなれない単語だったのだけれど、それがここ数年で無くなってきている。


人の名前はそのせいで間違い続けてるけど、あだ名を付けるのが大好きな人という事にしておいた。もうどうしようもないし。


「ところで瑠璃ちゃんの事なんだけど」


「え、彼方は瑠璃の事知ってるんだ。どうしたの?」


「お母さんが―――


 教室の扉が開き、蝋先生が入ってくる。


「皆さん座って、静かにしてください」


あうぅ

いい所で入ってきたよあの教師


「流石は名家の方々、ここの事をよく分かっておいでですね」


「では皆様方が身に着けている制服について説明します。それは身分の差を不明確にするのを目的に作られています。ここでは皆等しい生徒と言う訳ですね」


「基本的にデザインは統一されていますが、細かなところに個性が出ています。それは魔法のサポートだったり触媒入れだったり、用途は様々です」


確かに先生の言う通り、私の制服は腰にブックホルダーがある。

転生特典で貰った本が入る大きさで、私の魔力を流して鍵の開閉が出来る仕組みだ。


隣の刹那は え、私何も無いんだけど。無個性? という顔をしている...気がする。


「そして左腕のラインにお気づきでしょう。それは現在の習熟度を表しています。黄色になれば卒業検定の資格を得ることが出来ます。頑張ってくださいね」


なるほど、ランク分けみたいなものね。この世界、時間の概念ちょっと違うもんね。

1年生とかそういうのじゃない感じかな?


「さて、そろそろだと思いますが...」


先生が何か身構えている。何が起こるのだろう。


そう思っていると、突然、紙が先生の顔に張り付いた。


それを見ている全生徒が困惑している中、先生だけ天井を見上げていた。

紙で前は見えていないだろうけど。


「はい、授業を受けて修練を積めば自ずと卒業できます。その色は校則等にも関わってくるので後で見といてください」


顔から紙を引きはがしながら説明をする。


「あ、教科書や校則が書いてある小冊子等は社交パーティーの後に全部渡すので。それでは社交場へ集まってください」


そう言い教室を出ていく。

今回は地味な仕掛けで助かったとか言ってたけど学校のチャイム替わりに紙が貼りついたんだろうか。大変だなぁ...。


「それじゃあ行こうか、彼方」


「あ、うん!」


刹那に手を引かれ私たちは教室をあとにした。


3


 (流石は貴族っぽい人達の社交パーティー、挨拶のはしごをしてる)


「あ~~暇だ~~」


悲しいかな、刹那に全ての勇気を吐いたのでもう人と話す勇気が彼方には無かった。

その刹那はと言うと、ちょっと行ってくると言いどこかへ行ってしまった。


彼方は他の人に話しかけられるのも嫌なので人に紛れて上手い事人から逃げていた。


(孤立してると流石に目立っちゃうからなぁ...ははは...)


(中学から磨き続けた待ち合わせに向かってる風歩きが役に立つ日がくるとは思わなかったなぁ)


ぐるぐる。ぐるぐる。

人の意識外へ逃げるように歩き続けること体感30分、いきなり後ろから肩と口を押えながら声を掛ける存在。


「どうしたの?彼方」


「――――!!!!」


「ごめんごめん、どう声を掛けてもビックリしそうだったから口塞いじゃった」


彼方の心臓がありえない速さで鼓動する。

様々な感情とぐちゃぐちゃの思考をなんとか正し、刹那と対面する。


「あ、はは。びっくりしちゃった」


「悪いね、それじゃあ行こうか」


「ふぇ?行くって 、どこ、へ?」


「それはここじゃないどこかだよ。彼方もこういうの苦手なのかと思ってさ」


刹那の考えは全く持って正しい。彼方にしてみればラッキーだ、乗らない手は無い。


「その表情だと辺りみたいだね。よし、教科書貰って行こうか」


「...うん!」


刹那は彼方の手を取り、2人は社交場を後にする。

余りにも早すぎる退出に驚いた顔をされたが、そんなことは今の彼方にとっては些事であった。

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