24話-瑠璃
1
剛腕から放たれる攻撃は楯の目に弾かれ、彼方にわずかばかりの冷静さを取り戻させるきっかけとなった。
今ここで逃げることは出来るが、その場合周りの被害がどの程度になるのか分からない。ここで倒していく方が町の人を守る為になることを悟る。
(えーっと、えと、とりあえず)
『空蝉』
瞬きという僅かばかりの隙をついて飛んできた爪は彼方の影法師を切り裂く。
空蝉の効果で回避と裏取りをこなした彼方は最小限の被害に抑えるべく、威力の低い魔法を唱える。
『ジオショット』
放たれた魔法の弾丸は魔物の腕と足に命中するが何事も無いかのようにピンピンしている。速度低下のデバフもレジストされているように見える。
低レベルで覚える魔法は効果なし、少なくとも下位魔法無効化のパッシブスキルに近い何かは備えていると考えられる。
彼方はリーサルアーカイブでの経験を思い出す。
(魔法のレジストなんてダンジョンエネミーと戦ってるみたいじゃん...)
(どうしよう、あんな魔物相手にするの怖いよ...)
菫との1戦が彼方の尾を引いていた。初めて他者から受けた明確な敵意と痛み。
ゲームと同じ魔法やスキルは使えど、ここが現実であると嫌でも自覚してしまう。
一介の女子高生如きがこの現実と向き合うには少々荷が重い。
なけなしの正義感は今ここで潰えた。
(急いで城の人に知らせたい。けど、見ていないと殺される)
「誰か!助けて!誰かー!」
発狂に悲鳴を上げ、家に籠る人に助けを乞う。
しかし助けは来ない。過去1度も城下町に現れたことのない魔物に皆恐怖していた。
(ゆっくり、ゆっくり下がって逃げなきゃ)
『空蝉』
(空蝉の効果で1回は攻撃を回避できる。これを駆使して逃げよう)
「ゆっくり...ゆっくり...」
楯の目は魔物の接近を拒絶し彼方の撤退を支援する。
楯から火花が散り、魔物が分かりやすく苛つき始めた。
ガァァァアア!!!
「ひっ...!」
思わず目を瞑る。そして、それは死を意味することを後悔という形で彼方の脳が理解する。
(やばい、死ぬ)
瞬きより速く距離を縮め、最速で彼方を屠りに来る姿は芸術すら感じる。
その本能は最短を導き出し、その足は最速を求め
その腕は切り落とされる。
必死に目を瞑りこれから来る痛みに恐怖しながら震えるが、何秒経とうとその未来が来ることはなかった。
恐る恐る目を見開き、目の前の状況を確認する。
お腹、両手両足、どう見ても五体満足な体。
そして塵になって消えていく魔物と私の前に立ちはだかる金髪の幼女。
「大丈夫?お姉ちゃん」
2
振り返りざまにこちらの心配をする。
歳は12か13だろうか。どこか大人びた雰囲気を感じるが子供っぽさが抜けていない感じもする。そして月を想起させるような美しい金髪に整った顔立ち。
中でも彼方の目を引いたのはその目。
右目が橙色で左目が
そして左目の瞳孔がハートになっていた。
「大丈夫じゃないの?お姉ちゃん」
「あ、いや、大丈夫です...」
幼女の手を借り立ち上がる彼方。
「あの、貴方は?」
「私?私は
「る――」
瑠璃と言いかけて言葉が詰まる。翻訳の関係で名前が無理やり日本っぽくなって自分に伝わっている事を思い出したからだ。
「る、るりっち、助けてくれて、あ、ありがとう」
「るりっち?」
「あ、いや何でもない...です」
「可愛くていいね!るりっちでいいよ!」
「あ、あへへ...私は蒼園彼方で、す。」
「よろしくね!かなちゃん!」
「かなっ――よ、よろしくね」
熱い握手を交わす2人。傍から見たら彼方は変質者に見えているだろう。
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