22話-理性の従者


剣の腹で彼方の頭を押さえながら呆れて物も言えないような表情を浮かべる菫に、彼方は愛想笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「ど、どうして分かった、の?」


「言ったでしょう?肩に乗ってる葉よ。それ、私の魔法で作り出された葉よ」

「あー...なるほどね」


地面に落ちている葉っぱのいくつかが溶けて消えていく。

この場所にもってこいの魔法だ。気づける人はそうはいないだろう。


「早く立ちなさい。あんたがどれくらい出来るのか気になるから」

「は、はい!」

「来なさい」

「は、はい」


菫に連れられ広い場所まで歩く。


菫が振り返り静かにこちらを見据える。こちらを見定めるような静かな瞳。


(私は菫の事をほとんど知らない。分かっているのは剣を使える事くらい。初撃を眼で防いだ後どうしよう...)


「何を考えているの?そっちから攻めていいわよ。感謝しなさい」


(初見の攻撃で勝敗を付けるしかない)


「私、PvPはあまり好きじゃない、の」

「はぁ?PvP?何よそれ、どうでもいいわ」

「だから、これで決める!」


『ジョブシフト=光誕こうたん者』


「前とは違う詠唱ね」


『レイアーライト』


「光輝な忠義!」


レイアーライトによる眩い光による目つぶしと魔を払う神聖なるハルバードの一撃、ひるんだ敵対して雑に薙ぎ払うだけで致命傷となる攻撃。


「頼んだわ」

「任せろ」


しかしそれは第三者の声と共に止められる。


ライムグリーンと呼ばれる色をした屈強な腕はハルバードの一撃を容易く防ぎ、腕の主が徐々に姿を現す。


「映像には出さない契約をしたから見せてあげるわ。特別よ」


「これが私だけの魔法。理性の従者、エレイよ」


「こんにちは、瞳のお嬢さん」


菫の3倍はある巨大な体躯をした獣に近い何かが姿を現す。

太い腕に長く細い尾が一目見た時に上げられる分かりやすい特徴だ。


「理性の、従者...?」


「そう。私と唯一対等にいられる存在よ。私はまだここに立ってるけど、まさかそれで終わりって訳じゃないわよね?」


彼方的には一撃で勝負を終わらせられなかった羞恥で負けを認めて終わらせたかったが、反して菫はやる気マンマン。


いつでもどうぞの姿勢を見せている。


ここで逃げたら菫に申し訳ない。


それに


(本気で行かないと友達になってくれそうにない。菫さんとは仲良くなれそうだと思うから。ぼっち生活は送りたくない!)


「やる気のようね」

「行くよ!」


『漆黒なる宵の明星』


菫の視界を不能にし隙を作る。

理性の従者―エレイをまずはどうにかしないといけない。


『千年の誓い』


5本の剣が飛翔しエレイに襲い掛かるが、それをものともしないで彼方の影ごと防ぎきる。


「菫」

「分かってるわよ」


突如目を瞑ったまま、彼方の方へ真っ直ぐ向かってくる。


(えぇ!?目も見えてないのになんで!?)


『泥沼』


「エレイ」

「分かっている」


エレイが菫を抱え、泥沼を軽々と飛び越える。

菫とエレイは目と鼻の距離まで迫っていた。


「ジョブシフトとやらは使わないの?使えないの?」


『ツヴァイホーネット!』


菫の問いかけに魔法で返す。ジョブシフトが連続で使えない事に気づいてはいるが、確信は持てていないと言う所か。


(残りCTクールタイムが30秒、波状攻撃を仕掛けられるまで結構かかる)


(どうやって乗り切ろう)


彼方は深いため息をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る