21話-菫

1


他の生徒が魔法を駆使して戦う中、刹那は己の体1つで戦っていた。

その異様な光景に教室もどよめく。


「刹那、まぁまぁやるじゃない」


菫が彼方の横に座る。


「あの、菫、さん..?」

「何?」

「いや、名前で、よ、呼んでるな~って...」

「雑魚じゃないのは分かったから名前で呼んでるだけよ」

「は、はい...」


彼方を射殺すような目で見て来たのでそれ以上の会話は避けた。


どうやらある一定の能力がある物は雑魚とは呼ばないらしい。

認めるところはしっかりと認める強さを持っているようだ。


「入る学校間違えてるんじゃないの?」


次々に拳で生徒をなぎ倒す姿を見て菫がポツリとこぼす。


「訳アリ、みたい、よ?」

「下らない理由ね」

「あはは...」


乾いた愛想笑いしか出なかった。


菫の発した言葉は全員が思っている言葉そのものだったようで、若干の不満の声も上がっていた。

体術を用いてはいけないというルールは存在しないが、魔法も使わず身体能力に物を言わせてなぎ倒すのは違うのでは?という意見も分かる。


結局、刹那が全員を倒して戦いは幕を下ろした。


2


「後半組は来てください」


蝋先生が教室に入るや否や招集がかかる。

次はいよいよ彼方と菫の番だ。


(緊張するー!)


元の世界でのテスト開始数秒前に起こる独特の緊張感を胸にゲートをくぐる。


遂に彼方の戦いが始まった。


前も後ろも森の中。

胸に手を当て、心を落ち着かせる。


(落ち着け蒼園彼方。この手のバトロワは遊んだことある)


(まずは索敵)


『ジョブシフト=ハンター』

『ペ・シュート』


手始めに近くに生徒がいないか確認する。


(反応は5人、か)


ペ・シュートの長所は索敵範囲の広さと情報を得る速さ。

何でもいいから早く情報が欲しい時に使える。


しかし短所も存在する。


まず得られる情報が何となくしか分からない。大雑把なのだ。

敵がここら辺にいるはずというふわふわした情報しか得られないので細かいことを知りたい時は他の索敵スキルや魔法を使わなければならない。


次に使用者の方角とスキルを使われたことがばれる。


ペ・シュートの索敵に引っかかった人には独特の違和感が生じる。

そしてどこの方角から索敵が入ったのか何となくで伝わってしまう。


故にリーサルアーカイブでは使いどころが限られる玄人向けスキルとして認知されている。


(私が囲まれている感じかー。まずは隠れたほうが無難かな)


『惑わしの霧』


魔法で自身の姿を岩に変えて気に寄り掛かる。


(動くと魔法が解けちゃうし暫くのんびりしてよーっと)


3


彼方が魔法を使って10分くらい経過した。

3回程生徒が彼方の近くまで来て去っていく姿が見えた。


(何の魔法使おうかな~。搦め手が多い職業になって戦う方がいいかな?)


(でも色んな魔法使いたいしな~)


彼方があれこれ悩んでいるとまた1人生徒が現れた。


「彼方いないじゃない。本当にここら辺なの?」


現れたのは群青菫。彼女は1人のはずだが、誰かと話しているように見える。


(んー?誰と話してるんだろう...)


「分かったわよ。探せばいいんでしょ。さっさと手伝って」


(もしかして索敵する?ばれちゃうじゃん!何とかしないと!)


(どうしよう、奇襲するか逃げるか...うーん)


「あら、そこにいたのね」


「ふぇ?」


突然正面から声がかかり素っ頓狂な声が出る。


「肩に乗ってる葉っぱでも掃ったらどう?バレバレよ」




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