19話-楯の目

1


「雑魚が何とかしなさい。出来るでしょ」

「えぇ!?私だけだと、難しい、かなぁ~...?」


「はぁ...」


「最低限の援護はするから何とかしなさい」

「あ、ありがとう!」


菫は短く『剣』と詠唱すると、一振りの片手剣が姿を現す。


「ほら、早く何とかしなさい」


菫に苦言を呈す。

余りに様になっている菫に見惚れている所を、ハッと我に返り慌てて魔法の方に意識を割く。


(大型のボスはまずデバフをかけないと小さい攻撃はダメージが通らない)


(ゲームの世界ではないけどゴーレムは固そうだし同じようにやってみよう)


『ジョブシフト=降星術師』


(まずは重複しない魔法、そして効果時間が長いやつ)


『フレア』

『氷雪の縮図』


彼方による魔法でゴーレムの動きが鈍くなる。

今頃熱さと寒さで地獄を見ている事だろう。


(次にバフ。欠損させるのに使えそうな魔法)


『彗星』


水星を彗星の効果で次に与えるダメージを倍にする。


(後は一撃で片足を破壊できそうな攻撃)


『スーパーノヴァ』


ゴーレムの右足にギラギラ光る煌めきが集まったと思われた次の瞬間、激しい爆発が巻き起こる。

爆風は周囲の木々をなぎ倒し、爆心地の熱により周囲の地面が溶けていた。


当然彼方達も熱と風に見舞われるかと思いきや、何の影響もない。

彼方にはチート能力の目があるのだから。


それは


楯の目


右目瞳にある魔法陣が作動しあらゆる攻撃から守る堅牢の楯。


菫と蝋は構えを解く。


「彼方さん、結構やりますね」


「あいつ何者なの...?」


2人は思わずぽつりと呟いた。


2


「菫さんは私に着いてきて」

「分かったわ」


片足を吹き飛ばされ、倒れるゴーレムへ駆け出す2人。


ギルマスとして活動していた時代の名残か、吃音もなくハキハキと喋りだす彼方からの流れるような指示に菫も従ってしまう。


「あのゴーレムについて知っている事は?」

「ゴーレムは核を用いて作るタイプと形は作っておいて魔力で動かすタイプがあるわ。あの量のゴーレムを動かしてるってことは核がある方ね」


(核があるタイプ。オーソドックスなのは心臓の部分だよね)


「核ってやっぱり心臓の部分?」

「頭かお腹の辺りよ」

「それじゃあ菫さんは首を切断して。私がバフをかけるから」

「...って私に気安く指示出してんじゃないわよ!」


菫が我に返り喚きだす。

彼方がビクッっと肩を跳ねさせ目を真ん丸にして呆けていると菫がため息を漏らす。


「はぁ...」


「まったく、私より弱い癖に生意気ね!」


悪態をつきながらもゴーレムの首元まで向かう。


(菫さんやっぱり根は優しい人なんじゃ...)


(いや、今は戦闘に意識しないと)


頭の中をスッキリさせ、目の前に集中する。

菫の剣に攻撃力を上げるバフを入れる。


『剣豪の魂』


彼方が愛用していた攻撃力アップの補助魔法。

魔法の効果が上乗せされた菫の剣はゴーレムの首を容易く切断し、核とのつながりを断った。


「終わったわよ」


菫がゴーレムから飛び降り告げる。


「良かった~」


彼方が安堵する。

ゴーレムはピクリとも動かない只の瓦礫に変貌する。


「お疲れ様、2人とも」


蝋先生が現れ、2人を労う。


「それじゃあ最後の測定だから皆と合流しましょうか」


「は、はい」

「...」


ゲートが開き、3人はその中へと足を運んだ。

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