16話-自己紹介

1


最後の生徒が教室に入ってから少し時間を置いて、教師であろう服を着た人が教室に入ってくる。


「こんにちは、皆さん。私の事はろうと呼んでください」


(うわー入学式思い出す~きついぃぃ...)


彼方は中学校での出来事を思い出して悶えていた。


「皆さんには自己紹介をしてもらいます。生徒同士は既に挨拶を済ませていると思いますが、そういうルールですので」


(え、嘘!?)


思わず周りを見渡す。

殆どの生徒が当然という顔をしている。

一部はどうでも良さそうな顔をしている人が、大体は済ませているみたいだ。


(なにそれ!やけに初日から活気があるなぁとは思ったけど、そういう事!?)


彼方が衝撃を受けている間に自己紹介が始まる。

廊下側の1番前の生徒から自己紹介をしているので、彼方は最後。

窓際の1番後ろに座っていた。


1人、2人と自己紹介を済ませていく。

最初の方は精神を落ち着かせながら聞いていたのだが、10人目辺りから徐々に焦りだす。


(みんな同じような挨拶してるじゃん!え?テンプレでもあるの?)


その後、全身全霊を持って挨拶を見ていると些細なことに気が付く。

殆どの人が、自身の家の功績を語っているのだ。


(え~、なにこの自己紹介。自分の家がどれだけ凄いかアピールしてんの...?これもテンプレに入ってるのかなぁ)


「次の方どうぞ」


先生が自己紹介するように促す。

まだ自己紹介してないのはただ1人。

彼方だ。


ぎこちない足取りで教壇に上がる。


(おち、落ち着け。テンプレはさっき沢山見たし聞いた。それっぽくなるはず!)


「皆様、初めまして。蒼園彼方と申します」


(よし、次に功績語りフェーズ!...開拓地の事を言おう!)


「私の家では主に魔法の研究、開拓地の植生の調査、治安の確認を行っております。先日も新種の植物の発見致しました」


(よし、形になったはず。あとはテンプレだ)


「親愛なる王と我々国民に輝かしい未来とさらなる発展を。皆様との出会いに感謝を。お互いに実りのある毎日を。」


(よし、決まった!)


内心ガッツポーズをしながらお辞儀をして戻る。


「神に感謝するの忘れてたよ」

「あっ」


刹那に指摘されて気づく。1番感謝しないといけない人への感謝を述べていなかった。テンプレを殆ど覚えて実行出来たので良かったが、大事な部分が抜けてしまっていた。


当然周りの生徒からの視線は痛かった。


2


しかし、彼方の自己紹介だけが目立っていたわけではない。

例えば隣に座っている虚刹那。


「こんにちは。虚刹那です。よろしく」


以上である。流石に教室がざわついた。

後は群青菫ぐんじょうすみれ


「菫よ。アンタ達雑魚に興味はないわ」


と、強烈な自己紹介をしていた。

それに比べたら幾分かマシである。


蝋先生が凍学校のルール等を伝えた後、休憩時間になった。


「ねぇ、彼方」

「な、に?刹那、さん」

「魔法って得意?」

「まぁまぁ、そこそこ、で、す」


緊張の余りまともに喋れていない。

そのうえ何年もまともに同年代くらいの人とは喋っていない。


「時間があったら魔法の使い方教えてよ。私、まともに使った事ないから」

「え...え?」


(ここ魔法を学ぶ学校なんだけど...)


「魔法、使えないのにこの学校に入ることになって困ってたんだ」

「それは、たい、へんです、ね?」

「うん、大変だから。お願い」


カタコトで何とか会話を成り立たせていると先生が入ってくる。


「それじゃあ能力測定するから。外に出て」


彼方の魔法の腕が試される。

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