出会い編

15話-入学

1


午前6時


櫻巴がイーソドから買ってきた時計のおかげで時間も分かり、彼方が早起きという事が判明した朝。

彼方は緊張のあまり睡眠の質が最悪であった。


「う~眠い...」


いつも通り風呂に入って食堂に向かう。


「おはよう、彼方」

「んーおはよう...」


朝食を口に詰め込み図書館へ向かう。


「零さん、おはようございます...」

「おはよう。頃合いになったら起こすから寝て良いよ」

「はい~...」


数年かけて零とまともに喋ることができるようになった彼方に死角はない。

櫻巴が朝から仕事がある日は、こうして零に起こしてもらう日も偶にある。


(ね~むい)


半分しか覚醒していない意識は即座にシャットダウンし、彼方は机に突っ伏して寝てしまった。

眠い時のダラダラ癖はこっちの世界に来ても治っていなかったようだ。


2


夢を見る。


櫻巴が1年ほど留守にしだしてから頻度が増えた。

片目がハート目になっている少女と向き合っている夢だ。

今日は幼女ではなく少女、左目がハートになっている。


(今日はいつものパターンかな)


正直見たくもないが、意識があるのだから見てしまう。


「彼方」


初めて名前を呼ばれた。


「え?」


思わず素っ頓狂な声を出す。

オッドアイの少女の手には剣が握られており、こちらを睨みつけている。

その少女から殺意のこもった言葉が漏れる。


「彼方」


そして、私は一言も喋ることなく本の力を使う。


「彼方」


零の呼ぶ声で目が覚める。


うなされてたけど」

「大丈夫、です」


額にわずかに流れ出る冷や汗を拭う。


「ありがとうございます。学校、行ってきますね」

「ん」


零は書類の整理に戻る。

彼方は部屋に戻って時間を確認する。

時計は7時を指していた。


(そろそろ向かおうかなー)


そう言い彼方は町の中へ消える。


3


午前8時


彼方は広い校内の中を彷徨っていた。


(教室この辺だと思うんだけどなぁ...生徒っぽい人もまばらにいるから時間に余裕はあると思うけど...)


「あ、あった」


ミゼリ。

それが彼方の割り当てられたクラスだ。


(静かに、静かに、中学の失敗はしないぞ...!)


静かに扉を開け、適当に開いている席に座る。

周りを見た所、絵に描いたようなお嬢様やお坊ちゃんがいる。


(ここの空気が胃に悪いよー)


周りの生徒は支給された制服がビシッと決まっており、体の周りからオーラが発せられているように錯覚する。


(うぅ、端っこに座っといて助かった~...)


ホッと胸を撫でおろす彼方。

そんな彼方に横から声がかかる。


「こんにちは」

「え?あ、こん、にち、は。あはは...」

「君も片目交換したの?」


挨拶の後に聞こえてはいけない単語が飛び出し、思考が停止する。


「...?」

「その右目、普通じゃないよね」

「え、いやオッドアイは珍しく無いんじゃないかな~?」


彼方の言う通り、周りを見てみるとオッドアイの生徒がチラホラ見られる。

この世界では半々くらいの確率でオッドアイが生まれる。

先天性ではあるが、病気とかではなく遺伝だ。


「目の色じゃなくて瞳。普通じゃない感じがして」

「え、ああ気のせいじゃないか、な?」

「そう」


いきなり彼方の目の秘密を看破されるところだった。


(この人、勘が鋭すぎでしょ)


彼方が動揺していると謎の少女が片手を差し出す。


「私の名前は虚刹那うつろ せつな。よろしく」

「あ、蒼園彼方です。よろしく、刹那さん」


(虚刹那、バリバリの厨二ネームじゃん!)


思わず心の中でツッコミをいれる。


「いや、刹那じゃなくて刹那」

「え?刹那さん、ですよね?」

「...」

「...」


気まずい空気が流れる。

刹那はこいつ耳悪くね?という顔になり、彼方は変な事言った?という顔になる。


(これお母さんの時にもあったなぁ...もしかして翻訳の関係でこうなってるのかな)


適当に仮説を立てて取り敢えず刹那に謝る。

刹那は全く気にしてないようだった。


微妙なスタートの学園生活が始まった。








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