10話-魔法の発明
1
的当てで地獄を見た次の日。
焦げ目が散見される草原に立っていた。
何が行われるか、櫻巴の授業である。
「昨日はペンを使えた?」
「いや、うっす~い字しか書けなかった...」
「あはははは!それでも書けるだけの魔力は残ってたんだね~」
「ちょっとー!笑いすぎー!」
「ごめんごめん、それじゃあ始めようか」
破顔一笑。櫻巴はにこやかに授業を始める。
「それじゃあ次は魔法を生み出してもらう」
「え?生み出すの?」
「そう。彼方には少々簡単かもしれないけど、大事な工程でもある。昨日、彼方は散々火が出る魔法を使ったから火というイメージが強いんじゃないかな」
(うっ...)
櫻巴の言う通り夢に見るくらいには脳裏にこびりついている。
「だから火が出る魔法を生み出しやすいはずだ」
「ふむふむ」
櫻巴が大木を地面から生やす。
「この的を燃やす手段をひたすら考えるんだ。そうすれば詠唱が勝手に思い浮かんでくる。それができれば次に行こう」
彼方からすれば的を燃やすのは簡単だ。
リーサルアーカイブの魔法を使えば一瞬で次に行くことは出来る。
漆黒なる宵の明星が使えたのだから、ほかの魔法も使える可能性が高い。
(でもなぁ...)
折角の機会だから自分だけの魔法を作ってみたい。
どうやって燃やすか。
(ファイヤーボールってのも味気ないよなぁー)
(あの木デカすぎでしょ。何あの魔法、どうやって全焼させればいいんだー?)
彼方はひたすら大木を眺めている。
(昨日みたいにでっかい槍作ったら...でも消費魔力凄いんだろうなー)
いつの間にか櫻巴はテーブルと椅子を用意して寛いでいる。
(火の剣...は熱くて持てないなー。昨日の魔法思いっきり熱かったしなー)
2
彼方があーでもない、こーでもないと考えている間に、櫻巴は読書に昼寝とダラダラ過ごしていた。
藍色の空が浸食する頃、彼方は仰向けになりながら考えて続けていた。
(あの木がぺらっぺらの紙だったら簡単に燃えるのにな~)
突如、彼方の脳裏に電撃が走る。
「ん!?天才かも!」
仰向けになっている体を起こす。
「中身を別の奴に変換すればペラッペラの薄皮1枚じゃん!」
スッキリした顔になった彼方は木へ向かって歩いて行く。
詠唱は既に定まった。
『たーまやー!』
大木を突き抜け、中から
「彼方ーーー!!!」
それと同時に櫻巴が血相を変えてこちらに向かってくる。
『凍える心よ顕現せよ』
櫻巴の詠唱が終わると同時に、光の球は眩い光を発しながら爆発する。
彼方が思い浮かべた花火とは全く違う姿となって形になった。
当然爆心地の真下にあったペラペラの大木は消し炭になり、周囲の地面も蒸発するまでに至った。
「ふぅ、危なかった...怪我は無い?彼方」
「う、うん...」
彼方はあっけにとられた顔をしている。
まだ何が起こったか理解していないようだ。
「どれくらいの魔力を流したの?」
「火の槍くらい...?」
「次からは使う魔力をもっと少なくしようね...」
「うん...」
櫻巴に抱きしめられ、彼方は身動きが取れなくなる。
「ありがとう」
「大丈夫、私は強いからね」
思わず気が抜けて地面にへたり込む。
「木も燃えたし、帰ろっか」
「うん」
櫻巴の魔法の影響か、空気がひんやりする。
彼方は小脇に抱えられ、草原を後にする。
3
城に帰ってからというものの、彼方の意識は上の空であった。
「ぼけー」
浴場でぼけーと言う言葉を口に出すぐらいである。
「ぼけー」
かと思ったら急に思いつめたりする。
(あの威力は何なのー!?想像してたものと全然違うじゃん!)
(私ってやっぱり凄い魔力量もってるのかなぁ...)
すると再びぼけーっとする。
「ぼけー」
(でも漆黒なる宵の明星は...)
「ぼけ?」
半分ボケながらも1つの考えが浮かぶ。
櫻巴は他人が使っている詠唱は無駄に魔力を使うと言っていた。
威力と消費魔力が見合わないと。
漆黒なる宵の明星は彼方が作った魔法ではない。
ゲームに実装されている魔法だ。
リーサルアーカイブから持ってきた魔法、他人が作った魔法に該当する。
(リーサルアーカイブの魔法なら威力を抑えて使うことが出来る。 しかも使ったことがあるからイメージはバッチリだ!)
「これなら大丈夫...だといいなぁ」
彼方は不安を胸に日記を書いて眠った。
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