8話-冒険者の条件
1
夢を見る。
(あぁ、またか)
頻繁と言う訳ではないが偶に見る夢。
内容は概ね同じだが、細部が違う。
「――――」
オッドアイの少女がまた怒鳴る夢かと思ったけど、今日は違った。
眼前にいるのは幼女で怒鳴りつけても来ない。
しかし、片目の瞳孔はハート型になっておりこちらを見つめている。
「――――」
オッドアイの幼女が何かを喋っているが聞き取れない。
彼方が1歩進んだところで幼女の頭は弾け飛び、夢が終わる。
「...はぁ」
憂鬱な気分のまま朝を迎える。
日記に日数を記録する。
(2の鐘が聞こえてから1630日経過。中学生だった時の顔にそっくりだなー私)
鏡で自分の顔を見て懐かしむ。
クローゼットの3段目を開け、着替えを持って浴室へ向かう。
余談だがクローゼットの1段目と2段目は櫻巴が寄越した服がぎっしり詰まっている。
(お母さんにお願いしてお風呂作ってもらって良かった~。お風呂がないと生きていけないよー)
日数を数えて100日後くらいだろうか、彼方のお風呂欲求は限界を迎えた。
櫻巴に頼み込んだところ、二つ返事で了承。
王族も満面の笑みでお風呂を利用するに至った。
(さて...)
湯船に浸かりながら、彼方はここ数年に渡って見続けた夢の事を思い出す。
基本的には少女に怒鳴られた後、自分が本の力を使って終わり。
だが、今日は幼女。初めての大きな変化だ。
自分の腕が片方なかったり知らない人が横で横たわっていたりとシチュエーションに差はあれど、相対する人が変わることはなかった。
そしてオッドアイとハート型の瞳孔。
少女はいつも左目がハート型の瞳孔だったが、幼女は右目。
(もしかして関係があるのかな...)
それっぽいことを考えても彼方には分からなかった。
(ま、夢だし考えすぎかな)
(アニメとかだったらループ前の記憶だったりするんだけどなー)
そんなことを考えながら風呂から出るのであった。
2
食堂へ向かう。
と言っても正規の食堂ではなく、櫻巴が用意した2人で食事をするための部屋だ。
「おはよう、彼方」
「おはよう、お母さん」
櫻巴の話に耳を傾けながら朝食を摂る。
最近は開拓地と呼ばれる土地に用があってよく赴くそうだ。
なんでも美しい宝石や未知の鉱石、新種の植物や動物が見つかるみたいで開拓が進んでいる。
中でも彼方が興味を持ったのは冒険者という職業が生まれたという話だ。
「それで、その冒険者っていうのは何をするの?」
「主に遺跡の安全確保、未知の収集と言った所かな。やりたいことが無いなら冒険者になるのもありだよ」
「え?冒険者になってもいいの?」
彼方の目が輝く。
彼方が人生で一度は経験してみたい職業ランキング1位の冒険者だ。
彼方の頭の中は冒険者になって無双する事だけを考えていた。
「それじゃあ本格的に魔法の勉強をしようか」
「え!ほんとに!?やったー!」
ここ数年基礎しか教えてもらえなかったが、櫻巴は遂に重い腰を上げて指導するようだ。
「ただし、私が良しと思うまでは冒険者にはなれないよ」
彼方の額に冷や汗が流れる。
「あと、学校は卒業してもらうよ。王様が五月蠅くてね」
「はーい!」
いよいよ異世界ファンタジーっぽくなってきて、彼方のテンションは天まで届く勢いであった。
このことはしっかりと日記に書き留めた。
当然、日本語で。
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