7話-鐘

1


漆黒なる明星により櫻巴の体勢が崩れ、隙が出来る。

そこへ彼方の影が短刀へと変貌し櫻巴に襲い掛かる。


「櫻巴さん!」


影に劣る速度で櫻巴に駆け寄る。


「私の事はお母さんと呼んでって言ったはずだよ」


何事も無かったかのように櫻巴が立ち上がる。

影も動く気配を見せない。


「何が起こったの?」

「魔法を打ち消しただけだよ。私は強いからね」

「良かった~...」


ホッと胸を撫でおろす。

魔法を使った相手が櫻巴なのが不幸中の幸いだ。


「今日は終わりにしよう。魔法を使い始めた所からかなり良かったよ」

「うぇ!?あ、ありがとう...」


「これを続ければ、どんな相手からも逃げられるよ」

「私もっと平和に生きたいんだけど...」

「何が起こるか分からないんだから、逃げ方だけは絶対教わらないとダーメ」

「ふえ~」


彼方が後ろに倒れこむ。

走ったことによる疲労と魔力の消費に体がついて来れなった為だ。


基礎訓練1日目は櫻巴の手によって城に担ぎ込まれることになった。


2


ある日の昼下がり。

日課の基礎訓練を済ませ、庭で燃料切れを起こしていると鐘の音が聞こえてきた。


「ん?もう2の鐘か」


(2の鐘?そう言えば櫻巴さんと出会ったころも1の鐘って単語が聞こえたなぁ)


「その鐘って何?」

「寿命だよ。人は鐘の音を10回聞いたら死ぬんだ」


さらっと死期を告げる櫻巴。


「彼方はあと8回だね」

「え、ちょ、それ本当!?」

「私が彼方に嘘をつくもんか。本当だよ」


(聞いてないんですけどー!何この世界!)


「因みに、何年周期で鐘の音が鳴るとかは...」

「何年?よく分かんないけど気づいたら鳴ってるよ。気にすることでもない」

「お母さんは何回、聞いた、の?」

「6回」


(あの見た目であと4回!?どう見ても20代前半でしょ!!)


彼方の動揺は櫻巴にも充分に伝わっていた。

気を使ってか、櫻巴は話題を変えてきた。


「彼方も大きくなるし、服でも探そう」


そう言い、彼方を担いで彼方の部屋に向かった。

櫻巴の腕の中で、彼方は日記に日数のカウントをしようと決めた。


3


「彼方!この服どう!?」

「え?いや、鏡で見ないと分かんない...」


どう見ても趣味全開のゴリゴリに黒を基調とした服を当てられて、感想を求められる彼方。

一方、若干引かれている事に気づかず上機嫌の櫻巴。


「あ、鏡ね。はいはい」


櫻巴がそう言うと、スタンドミラーを横にずらす。

するとボタンが現れた。

櫻巴がボタンを押すとスタンドミラーが鏡として機能しだした。


(あ、曇りガラスじゃなくなってる)


「彼方、これは?これとか」

「いいと、思う...。うん」

「本当!?これも、これとかも!」

「ウワーカワイイー」


黒に黄色の線が入った服、ピンクのワンポイントが目立つ黒い服。

所謂ゴスロリに分類されそうな服。

彼方の目にはほとんど同じ服にしか見えなかった。


(鏡見てようやく気付いたけど、これ私の体が縮んでるだけだな。巨人なんていなかった...)


とかすごく今更なことに気づきながら、大人しく着せ替え人形に徹することにした。


(いつかマシな服をお願いしよう)


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