6話-運動音痴の鬼ごっこ
1
夢を見た。
オッドアイで片目の瞳孔がハート型になっている少女と話をする夢。
暗くて顔が見えなかったけど凄く怒っている様だった。
そして私は本を、本の力を使う。
そこで終わり。
私の夢はそこで醒める。
「ん~朝ぁ?」
朝の日差しに顔を照らされ、ベッドから転げ落ちる。
「んー朝だなー...」
深いため息と共に体を起こす。
そして彼方が起きると同時に櫻巴が現れ朝食を摂る。
櫻巴が用意した服に着替え、顔を洗い図書館へ。
これが最近のルーティーン。
「ねぇ、さく...お母さん」
「ん~?」
「最近、勉強が文学よりになって、きてない?」
「そりゃあ物覚えがいいから寄り道もしたくなるよね?」
「魔法の勉強を増やしたりは...」
熟考すること体感10分、櫻巴は頷いた。
「そうだね。文字の読み書きも出来るし、魔法を教える時間を増やしてもいい」
彼方の顔がパーッと明るくなる。
「でも、基礎運動能力を高めてからね」
一転、彼方の顔は深淵を見つめていた。
「それじゃあ体を動かしに行こうか」
虚無顔の彼方を担ぎ、櫻巴は庭に赴いた。
2
「何を、するの?」
「走る」
走る。
その一言は彼方を煉獄へ陥れる。
彼方の脳裏に想起させる持久走とソシャゲのイベントの数々。
走るという言葉は、彼方がこの場から逃げる理由になり得た。
「お母さん、私この国の歴史書読みたいなーなんて...」
「じゃあ走ろっか!」
(絶対嫌!この人私の話聞いてないでしょ!)
「私が後ろから追いかけるから、彼方は逃げてね。どんな手を使ってもいいよ」
「え、いやだから歴史書...」
櫻巴が一定の距離を取る。
何が何でも始める気であろう。
「私に捕まったら明日のご飯抜き、ついでに魔法の勉強も無し。ほら、逃げて」
(ひえ~ご飯抜きは死ぬー!!!!)
彼方は脱兎の如く駆ける。
城の門を抜け、城下町へ。
(あれ?何気に初城下町じゃん。適当に隠れて見て回りたいな~)
余裕があるのも束の間、櫻巴は彼方と全く同じ速度で向かってくるではないか。
そしてその目は彼方を獲物としか捉えていなかった。
(こわ!あの人こっわ!どうにかして撒かないと気が休まらんわ!)
人混みを使い撒こうとしても、道の曲がり角や町の高低差を利用して攪乱しても櫻巴は必ず一定の距離を保ってこちらへ向かってきていた。
(もう、無理...きつすぎ...息が...続かないって...)
「ほら、逃げないと捕まっちゃうよー。逃げきれたらとっておきの魔法教えようと思ったんだけどなー」
(とっておき!?気になる...アニメで見たド派手な魔法を使って見た気もする)
彼方の憧れは彼方を奮い立たせた。
(どうやって距離を離そう。あの人は何をしても一定の距離を保っていた。
逃げるだけだと距離を離せない)
そこで彼方は1つの結論へたどり着く。
「魔法...」
その呟きで櫻巴の動きが一瞬止まる。
つまり、当たりだろうとハズレだろうとその考えは櫻巴が待っていた変化の1つ。
初めて魔法に触れた日を思い出す。
(魔力に方向性を持たせて、吹っ飛ばすイメージ...!)
「やーーっ!!」
魔力の流れが櫻巴へ向かい、そのまま遠くへ吹き飛ばす。
思っていたより櫻巴が遠くへ吹っ飛ばされるのを見て、思わず嘘!?と声が出る。
「それ、久しぶりに出したね。彼方」
家の外壁にふんわりと着地し、彼方を見据える。
「それじゃあ少し足を速くするよ」
宣言通り、先程より速くこちらへ向かってくる。
しかも彼方の反撃を考慮して不規則に横に動いている。
(うひー!第二ラウンドってやつ!?とにかく逃げるしかない!)
慌てて逃げだすが運動が苦手な彼方ではすぐに追いつかれてしまう。
(何か使えそう魔法習ったっけ...)
魔法の勉強が始まってからの記憶を雑に掘り返す。
「えーっと、えーっと」
『焔、烈火の如く』
詠唱と同時に櫻巴がスクロールを取り出す。
「その魔法は周りを巻き込むよ、彼方」
スクロールは淡い光を放ち、彼方の魔法を不発へ導いた。
「他に教えたでしょ」
そう言いながらじりじりと距離を縮めてくる。
(ひーきつい...何か、何か、うーん...リーサルアーカイブの魔法しか出ない!)
咄嗟に頭の中に浮かんできた魔法を詠唱する。
『漆黒なる宵の明星』
漆黒なる宵の明星。
リーサルアーカイブで彼方が使っていた魔法の1つ。
相手の視力を極端まで弱め、おまけに視界を暗くする。
そして
(ゲームだと
彼方の影が櫻巴へと向かっていた。
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