5話-勉強

1


「それじゃあ魔法の勉強を、と言いたい所だけど」

「だけど?」

「最初は生活に必要な部分を教えるよ」


魔力量を測定したのが昨日。

彼方は魔法を使いたくてウズウズしていたが、お預けをくらっていた。


「櫻巴さん、その、なんで、ですか?」

「堅苦しい言葉はダーメ。もっと親しい感じで喋ってよ。あとお母さん」


「お、お母さん。その、魔法の勉強をしないのは、なんで?」

「彼方は廃棄街育ちだからこっちの常識教えなきゃいけないでしょ?」


廃棄街。

大陸の南、城の後ろに広がっている零れた落ちた人が住む街。

その暮らしは天と地の差がある。


そして、彼方の記憶は廃棄街で櫻巴に拾われた所から始まっている。


「文字の読み書きに心身の鍛錬、生きてく上での常識とかね」

「あぅ~...」


必要なのは分かってるけど面倒、そんな顔を彼方は浮かべていた。


「ほら!図書館に行くよ!魔法は空が暗くなってきたら少しだけ教えるから!」

「はーい...」


彼方はしぶしぶ図書館に向かうことにした。

神に文字の翻訳もお願いしとけばよかったと後悔をしながら。


2


「終わったーーー!!!!」


朱色の空が広がる中、彼方はバンザイをしながら城の庭に出ていた。


「うんうん、この調子なら魔法の勉強をする時も近いね~」

「えと、少しだけ魔法の勉強を...」

「するって言ったからね。やろうか」


(やった!リーサルアーカイブみたいな魔法使える!)


「それじゃあ右手を前に出して掌から外に魔力を流してみて」


言われた通りに右手を出して外に魔力を流そうとする。


(むむむむむ!)


しかし何も起こらない。


(むむむむむ!ほいや!)


右腕を前に突き出してプルプル震えている人が佇んでいる。


「コインに魔力を流した時はどうやってやったの、彼方」

「...」


(確か、補助魔法をかけようとして...)


彼方が補助魔法の事を考えていると、右腕に違和感を感じ始めた。


(ん?これは...)


「そう、その感覚。魔力が流れてるのが感じ取れたようだね」

「は...うん」


「今、彼方は魔力を外に垂れ流してる状態。力の方向性が定まってないから地面に落ちていってるんだ」


櫻巴はそう言いながら彼方に向かって歩いていく。

櫻巴が1歩近づくたびに、徐々に彼方の体が重くなる。

彼方は思わず膝を突いてしまう。


「どうだい?体が重くなっただろう?これは私が魔力を全身から垂れ流しているからだ。魔力量が多い人はこうすることで身を守ることが出来る」


ふと身体が軽くなる。櫻巴が魔力を流すのを止めたのだろう。


「次に力の方向性を定めよう。私を遠くに弾き飛ばす事を考えて魔力を流してみて」

「え、でも...」

「大丈夫だと分かって言ってるからやってご覧」


櫻巴に言われた通り、右手を前に突き出してイメージする。


(遠くへ行け!吹っ飛べ!遠くに...!)


彼方が念じると櫻巴がわずかに後ろへ退いた。


「そうそう!彼方は飲み込みが早いね!」

「え、えへへ...」

「よし、じゃあ今日はここまで」

「え、もう終わり?」


帰るよと言いながら櫻巴が城に戻っていく。

彼方は物足りないと感じながらも櫻巴の後についていくのであった。


3


時間にするなら8時頃だろうか。彼方は眠気を抑えつつも、櫻巴の話を聞いていた。


「彼方、これから毎日日記を付けてから寝る事。内容は今日勉強したことを書いてね。自分の成長を自分が知ることが出来る瞬間だから。書く時も、読む時も、ね」

「うん、分かった」


頬を撫でられ、何も書かれていない本とペンを渡された。


「そのペンは魔力を流せば文字が書ける。彼方なら使えるはずだからサボっちゃだめだよ」

「う、うん」


「おやすみ、彼方」

「おや、すみ...」


櫻巴が部屋を後にする。


(要するに宿題って奴かなー?面倒だからちゃちゃっと書いて寝よ)


眠気のせいで働かない頭を使い、日本語で日記を書き進めた。


(よし、日記書けたし寝よー)


明日も魔法が使える事を楽しみにしながら、夢の中へ歩みを進めた。

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